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最近、面白い商売あるかい

夜の仕込みが終わり、店は一度落ち着いた。

暖簾はまだ出ているが、

客は一息つく時間帯や。

三井の小間使い――名は名乗らんままやが、

今では自然に帳場の端に座っている。

博之が湯呑みを差し出した。

「他所の話、聞かせてくれや」

「三井で回ってる商い、なんかおもろいの、あるやろ」

小間使いは少し考えてから、静かに話し出した。

「最近やと……」

「和菓子屋ですね」

博之が目を細める。

「どこにでもあるやん」

「ええ。でも――」

「一日三種類しか出さない。しかも、朝に売り切れたら終い」

「宣伝は一切せず、常連だけが来る」

博之は、思わず笑った。

「強気やな」

「ええ。でも、売上は安定してます」

「数を出さない代わりに、一個の値段を下げない」

「職人が疲れへんから、味も落ちない」

博之は、鍋の縁を指で叩いた。

「ええな、それ」小間使いは続ける。

「もう一つは、着物屋です」

「売るんやない。直すんです」

「ほつれ、寸法直し、染め替え。派手なことは一切しない」

「でも、“この人に任せたら大丈夫”という信頼だけで回ってる」

博之は、深くうなずいた。

「商売って、結局そこやな」

そこへ、ユキが口を挟んだ。

「博之、ええ顔して聞いてるで」

博之は照れもせず返す。

「刺激になるわ」

「自分のやってること、間違ってへん気がする」

ユキは、楽しそうに笑った。

「それやねん」

「わし、こうやって横で見ててさ」

「色んな話が集まって、博之が考えて、また鍋に戻るやろ」

「それが、おもろいねん」

博之は少し黙ったあと、言った。

「商売の話は、腹減らへんな」

しばらくして、博之がふと思い出したように言う。

「で」

「最近、ほんまにおもろい商売、あるかい」

コマ使いは一瞬、間を置いた。

「……あります」

「まだ形にはなってませんが」

「人を増やさない。場所も広げない。

 でも、人が勝手に集まってくる商いです」

博之は、ゆっくり笑った。

「それ、俺の店と似てるな」

小間使いも、少しだけ笑った。

「ええ。だから、ここに来てます」

ユキは、その様子を見て言った。

「博之」

「知らん間に、人の商売、動かしてるで」

博之は首を振った。

「動かしてへん」

「ただ、聞いてるだけや」

鍋の火が、また静かに入った。

商売の話は、

今日も尽きそうにない。

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