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39/98

数を出す

 夜。

 帳面の灯りだけが、

 机の上に残っていた。

 博之は、長弁を開く。

 鶏汁と豚汁。

 弁当と出し巻き。全部合わせて、

 一日三千六百文前後。

 原価を引き、家賃と火代、

 細かい雑費を落とす。

 最後に残るのが、

 一日千七、八百文。

 月で回せば、五万文強。

 両に直して、十一両から十二両。

 ――この店は、ひと月で十一両を生み出す。

 大阪の端っこで。

 博之は、帳面から目を上げた。

 正直に言えば。これは、

 かなり出来ている数字や。

 松坂にいた頃。

 博之は、料理人やったけど、

 下働きやった。

 鍋は触れても、帳面は触れん。

 給金なんて、名ばかりで

 一月働いても、手元に残る金は

 数えるほどやった。

 それを思えば。今。

 自分の店が、ひと月に

 十一両、十二両を生み出している。

 これは、正直なところ、かなり贅沢や。

 松坂の頃の自分が見たら、

 たぶん信じへん。

 ――ほんまに、店一軒で

 そこまで残るんか、と。

 実感は、ちゃんとある。

 せやけど。

 店を切り盛りするいうのは、

 金が増えるだけの話やない。

 火代も、家賃も、道具も、

 人も。

 動かすたびに、金が出ていく。

 それに。自分の体調が一段落ちたら。

 売上は、その日ごと丸ごと飛ぶ。

 仕込みが止まれば、数字も止まる。

 病気になれば、帳面は一気に赤や。

 稼げる額が大きくなった分。

 失う額も、でかくなった。

 せやから。

 安心するには、まだ早い。

 人を一人雇う。

 その一言が、思っている以上に重い。

 給金は、毎月、必ず出る。

 店が回らん日でも、関係ない。

 それを思うと、落ち落ち

 心穏やかではおられへん。

 けど。今の店は、

 ちゃんと回っている。

 数字も、味も、流れも。

 せやからこそ。

 ――次、何ができるやろ。

 そんな考えが、頭から離れん。

 怖さと一緒に、ワクワクもある。

 止まらんくらいに。

 博之は、帳面を閉じた。

 夜は静かやった。

 けれど、胸の奥だけは、

 忙しかった。

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