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端っこの先 ――早すぎる芽

夕方。

火を落としたあと、店の前で少し風に当たっていた

時やった。

博之が、ぽつりと言った。

「……ここな」「大阪の端っこやろ」

女の子が、首を傾げる。

「はい」「せやから」「大阪から

 出ていく商人も通る」

「荷を積んで、明日どこ行くか考えながらな」

「そういう人らにも、弁当の口、あるんちゃうか」

 女の子の目が、少し動いた。

「……それやったら」

「隣筋で十売ってから」

「もう一回、こっち戻って」

「こっちでも売ってええですか」

 のぶが、思わず口を挟む。

「それは……」

 博之も、首を振った。

「まだや」「今は、手が回らん」

「数も、人も」「芽は分かった」

「けど、一気に伸ばしたら折れる」

 女の子は、少し残念そうに頷いた。

「分かりました」

 少し間を置いて、別の話を出す。

「……あの」「この弁当箱って」

「どこで作ってもらってるんですか」

 博之は、何気なく答えた。

「裏の筋の木箱屋や」

「最近付き合いある」

 女の子は、その場ではそれ以上聞かなかった。

 翌日。昼前に、女の子が少し慌てた様子で戻ってきた。

「すみません」「ちょっと……」

 手には、見慣れん弁当箱。

「木箱屋さんに行って」

「弁当持ってったら」

「これ、余ってるから使えって」

「……もらってきました」のぶが、箱を見る。

「大きさ、揃ってへんな」

 博之も、眉をひそめた。

「勝手にもらうたんか」

 女の子は、慌てて首を振る。

「ちゃんと言われました」

「余り物でええならって」

 その時。

 店の外から声が飛んだ。

「おい」「その箱、どこで使う気や」

 木箱屋の親父やった。

「やっぱり話が違うやろ」

「売り物に使う言うてへん」

 一瞬、空気が張る。

 博之は、すぐに頭を下げた。

「すんません」「こっちの段取りが

 追いついてませんでした」

「箱は、返します」

「代金も、改めて」

 親父は、少し唸ってから言った。

「……まあ」「話通す前に動かれたら困るわな」

「せやけど」「弁当、うまかった」

 それだけ言って、帰っていった。

 店に、少し気まずい沈黙が落ちる。

 博之は、女の子に言った。

「気が利くんはええ」「けど」「順番は守ろう」

「商売は」「善意だけやと揉める」

 女の子は、深く頭を下げた。

「……すみません」

のぶが、ぽつりと言った。

「でも」「目は、ええですね」

 博之は、苦笑した。

「せやな」「早すぎるだけや」

 店は、まだ一軒。

 けど、外を見始める芽が増えてきた。

 それは、ええ兆しでもあり、厄介な兆しでもあった。

 端っこに立つ店は、

 内も外も同時に見なあかん。

 今日は、それを知った日やった。

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