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話が入る ――転がる時は、重なる

昼の山が少し落ちた頃。

暖簾が、いつもの調子でめくられた。

「おう」

ユキやった。

「邪魔するで」

「どうぞ」

 博之は、鍋を見たまま返した。

 ユキは、店の中を一度見回してから言った。

「弁当、うまいこといっとるみたいやな」

「おかげさんで」

「近場は、合わせて二十ずつ」

「毎日、完売です」

 ユキは、鼻で笑った。

「ほう」「鍋は?」

 博之は、少し考えて答える。

「あと、二ヶ月くらいですかね」

「見たところ」

「鶏も豚も、もう一段詰めたいです」

「弁当が回ってるんで」

「今は、それでええかと」

 ユキは、頷いた。

「無理に詰めへんのは悪ない」

 それから、

 何気なく聞いた。

「で」「外にも出とるんやろ」

「はい」「隣の筋に」「十ずつ」

「女の子に任せてます」

 ユキは、にやっと笑った。

「なんや」「別嬪さんにそそのかされて」

「変なことやらされとるんか」

 博之は、苦笑した。

「ちゃいますって」

「その筋で弁当が売れるいうことは」

「そこに、飯の口もあるかもしれへん」

「二軒目、出すとしたら」

「ちょうどええ場所やなと」

 ユキは、一瞬、目を細めた。

「……下心なしで」

「そこまで考えとるんか」

「先までみとるなー」

 そう言って、笑った。

 その時。暖簾が、もう一度めくられた。

「ただいまです」例の女の子やった。

 博之と、のぶが同時に見る。

「どうやった」

 女の子は、少し息を弾ませて言った。

「一週間」「全部、売り切れました」

「しかも」「思ってたより早うて」

「もっと持ってきてくれ言われてます」

 店が、一瞬静かになる。

 博之は、頭を掻いた。

「……そうか」

「売れるもん、他にありますかって

 聞かれて」

「どう答えた」

 女の子は、困った顔をする。

「飯は難しいです、言いました」

 博之は、少し考える。

「せやな」「飯は出せへん」

「けど」のぶを見る。

「単品やったらいけるな」

「味噌田楽」「茄子の煮びたし」

「だし巻き」「ちょい多めに」

 女の子の顔が、

 ぱっと明るくなる。

「それ、助かります」

 ユキは、その様子を見て声を立てて笑った。

「はは」

「店も出してへんのに」

「ようそんなに儲け話が転がってくるな」

 博之は、肩をすくめた。

「転がってるだけです」

「拾うかどうかは、まだです」

 ユキは、暖簾の前で振り返った。

「せやけどな」「こういう話は」

「店を出す前に来るもんや」

「流れ、悪ないで」

 そう言って、出ていった。

 暖簾が戻る、博之は、鍋を見た。

 火は、今日も落ち着いている。

 店はまだ、一軒。けど、話はもう

 外を歩き始めていた。

 今日は、それを確かめた日やった。

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