外から来た日 ――筋を越える
それから、一月が過ぎた。
豚汁も、鶏汁も、相変わらずやった。
味は、崩れてへん。弁当は、二十個。
卵も、二十個。毎日きれいに、そこまでで止まる。
多くもなく、少なくもなく。ちょうどええ数が、続いていた。
そんなある日。
昼の少し前、見慣れん女の子が暖簾の前で立ち止まった。
「……ここ、弁当、ありますか」
のぶが顔を上げる。
「ありますよ」
「何個、いります?」
女の子は、一瞬ためらってから言った。
「合わせて……」「五つ、お願いできますか」
博之と、のぶが同時に顔を上げた。
「五つ?」「はい」「あの」
「隣の筋の、大工の親方の娘です」
「親方が、ここで買ってて」「一回、家で食べたら」
「また食べたいって」
博之は、思わず聞き返した。
「……隣の筋?」「はい」「隣筋です」
一瞬、店が静かになる。「よそから来たんか」
女の子は、頷いた。
「はい」「ここまで、ちょっと歩きました」
弁当と卵を包みながら、のぶが小さく言った。
「……売れてるんやな」
博之は、包みを渡しながら少し笑った。
「ありがとうな」
「また、寄って」
女の子は、頭を下げて出ていった。
その日の夕方。もう一度、暖簾がめくられた。
「さっきの者です」同じ女の子やった。
「あれ」「美味しかったです」
「親方も、売れそうやって言うてました」
少し間を置いて、続ける。
「あの……」「もし、よかったら」
「私に、代わりに売らせてもらえませんか」
博之は、一瞬、言葉を失った。「売る?」「はい」
「現場に、持っていくんです」
「お昼前に」
「まとめて、買う人も多いと思います」
のぶが、思わず言った。
「……うち、ここだけで売るつもりでした」
女の子は、少し照れたように笑った。
「だからこそ、いいかなって」
「よそで食べてもらって」
「また、ここに来てもらえたら」
博之は、鍋の方を見た。
火は、今日も安定している。
それから、弁当の箱を見る。二十個。
毎日、きっちり止まる数。「……のぶ」
「どう思う」のぶは、少し考えてから言った。
「一回、話、聞いてもええと思います」
博之は、女の子に向き直った。
「今日は、決めへん」「せやけど」「話は、聞く」
女の子は、ぱっと顔を明るくした。
「ありがとうございます」
暖簾が戻る。
店に、いつもの音が戻る。
博之は、心の中で思った。
端っこで、回していた店に。
外から、手が伸びてきた。
これは、偶然やない。
一月積んだ分が、筋を越えた。
今日は、その最初の日やった。




