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――言われるだけの日

前回の話で大阪の端に来て3か月。

・20両ほどを蓄えた・小間使いが増えた

・豪商から5両小間使いの給金と勉強代

日々の売り上げ

・豚汁70文・鶏汁55文 両方で1日40杯、・弁当30文1日10箱

経費

仕入れ等が30文×1杯 弁当15文×1個

家賃1両

 昼の山が、と息ついた頃だった。

 暖簾が、いつもの調子でめくられる。

「おう」

 博之は、顔を上げただけで分かった。

「来とったんですか」

「たまたまな」

 豪商の遠縁の方だった。

 松坂から博之を引っ張ってきた、

 あの町人――

 豪商で“様子を聞く役”を任されている男だ。

 勝手知った顔で腰を下ろす。

「豚、あるか」「あります」「ほな、それで」

 博之は、黙って豚汁を出す。七十文。

 男は銭を置き、何も言わずに啜った。

 しばらくして、椀を静かに置く。

「……崩れとらんな」

「ありがとうございます」

「端っこにしちゃ、よう回っとる」

 それは褒め言葉ではない。

 豪商の遠縁としての確認だった。

 男は、店の中を一度だけ見回す。

 鍋が二つ。椀の数。小間使いの動き。

「弁当も、続いとるな」「ぼちぼちです」

「三十文やったか」「はい」「安いな」

「勉強用です」「そら、分かる」

 男は、ふっと力を抜いた笑いをした。

そして、何気ない調子で言う。

「……次、考える時期かもしれんな」

博之は、すぐには答えなかった。

鍋を見る。

火は、今、ちょうどいい。

「まだ、です」

そう答えた。

男は、それ以上踏み込まない。

「ほな、それでええ」

「考えとらんなら、今はそのままでええ」

少し間を置いて、続けた。

「ただな」「数は、もう見えるとこまで来とる」

「端っこの限界も、お前なら分かっとるやろ」

 博之は、黙って頷いた。「焦らんでええ」

「けど、考え始めるのは悪いことやない」

男は、椀を軽く押しやった。

「次をやるかどうかは、お前が決めることや」

「俺らは、聞くだけやからな」

立ち上がり、暖簾の前で一度だけ振り返る。

「続いとる店いうのはな」

「次を考える前に、今を数えられる」

「それができとるなら、話は早い」

そう言って、男は出ていった。

暖簾が戻る。店の音が、またゆっくり動き出す。

小間使いが、控えめに聞いた。

「……次、なんですか」

「聞かれただけや」

博之は、鍋を見た。

「言われたからやるもんやない」

「考えられる段に来たか、見られただけや」

 夜。帳面を開く。数字は、

 昨日と変わらない。

 けれど――見え方が、少し違った。

 端っこで、これだけ回る。

 なら、次はどこか。いくら要るか。

 誰が立つか。まだ、決めない。

 だが――考える段には、入った。

 博之は、帳面を閉じた。

 今日は、

 それで十分だった。

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