↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メンヘラオジサン江戸時代のさえない料理場から再出発。悩み解決しながら成り上がる。7.9万PV達成  作者: メンヘラオジサン【監視アカウント】


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/229

腹をすかせた町人にまかないの豚汁を食わせたところ・・・

 博之は、自分の顔が好かれないことを知っていた。

 通称は「ひろ」。だが、この料理場でそう呼ぶ者はほとんどいない。

 黙っていれば不機嫌そうに見える。

 考え込めば、怒っているように見える。

 気を抜けば、疲れがそのまま顔に出る。

 主人は、それが気に入らなかった。

「なんだ、その面は。文句があるなら言え」

 博之は首を横に振る。

 文句はない。ただ、考えているだけだ。

「今日は安く仕上げろ。味噌も具も、控えめにな」

 博之は「へえ」とだけ返した。

 話は半分しか聞いていない。


 安く仕上げろ、というのは分かる。

 だが、味を落とせとは言われていない。

 味が落ちるなら、客は戻らない。

 戻らなければ、結局、損をする。

 博之は、そういう順番で物を考える男だった。

 だが、その考えが、顔に出る。


「……聞いているのか?」

「聞いてます」

 嘘ではない。

 ただ、全部は守らないだけだ。


 主人は舌打ちをして、奥へ引っ込んだ。

 あいつは使えねえ。

 そう思われているのは、分かっている。

 その日の昼過ぎだった。

 裏口から、町人が一人、ふらりと入ってきた。

 着物はくたびれて、腹の音がこちらまで聞こえそうだった。

「すまねえ。客じゃねえんだが……」

 若い衆が追い返そうとする。

「まかないでもいい。銭はねえが、腹に何か入れたい」

 博之は、その顔を見た。

 空腹の顔だ。

 見慣れている。

 博之は、返事をせずに鍋を見た。

 朝の炊き出しの残りが、まだ温かい。

「……それでいいなら」

 椀に豚汁を注ぎ、差し出す。

 町人は、礼もそこそこに、すすった。

 一口、二口。

 そして、動きが止まる。

「……なんだ、これ」

 博之は答えない。

「うまい」

 それだけ言って、町人は最後まで飲み干した。

「金は出せねえが……頼みがある」

 町人は、真っ直ぐに博之を見た。

「うちに来ないか。店を出すんだ。

 でかくはねえが、腹を満たす飯を出したい」

 若い衆がざわつく。

 博之は、少しだけ目を伏せた。


 主人の顔が浮かぶ。

 不細工な面だと言われた、自分の顔も。

「……話は、後で」

 それだけ言った。

 その日の夜、主人は博之を呼びつけた。

「お前、余計なことをしたな」

 博之は否定しない。

「安く仕上げろと言ったはずだ」

「安くは、しました」

「味は?」

 博之は、少し考えた。

「落としてません」

 主人の顔が歪んだ。

 その表情を見て、博之は思った。

 ああ、この顔だ。

 俺が嫌われるのは。


 感情が、どうしても顔に出る。

 それでも――

 あの豚汁を、まずいとは言わせない。

 博之は、黙って頭を下げた。

 外では、夜風が静かに吹いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。