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6月旦那会の初会合と婦人会の情報網

六月。梅雨の気配が街にまとわりつく頃、旦那会は静かに始まった。

場所は大阪の端っこ。人目につきにくく、落ち着いて話せるところ。

集まったのは、若旦那衆が数人と、博之。合わせて八人。

席も八人掛けで、ぎゅうぎゅうにならん程度や。

初回は、精のつくもの。迷わず、鰻屋にした。

理由は単純や。腹が満ちると、人は余計なことを考えん。

この会を、博之は正直、めちゃくちゃ楽しみにしていた。

商売のため、という建前はある。

せやけど、それ以上に「ただ喋る」場が欲しかった。

酒が出る前に、博之は一度、杯を置いた。

「今日はな、最初に一つだけ言わせてください」

 皆の視線が集まる。

「えー……まずは、深くお詫びします」

 一瞬、場がざわつく。

「うちの嫁がですね」

「婦人会、いうもんを立ち上げてしもて」

 苦笑いが広がる。

「結果として、皆さんの奥方様が」

「えー、お高の元に集まってしもたこと」

「ほんまに、申し訳ない」

 一拍置いて、どっと笑いが起きた。

「いやいや」

「それはそれで助かってますわ」

「うちのも、えらい楽しそうで」

博之は、内心ほっとしながら続ける。

「せやからな」

「まずは一年」

「ほんまに大人しくいきます」

 無茶はせえへん。

 変なことも考えへん。

「皆さんと交流して」

「美味しいもん食べて」

「ダラダラ喋る」

 それだけでええ。

 鰻が運ばれ、話は自然と緩んでいく。

 商売の話もあれば、家の話もある。

 誰が忙しいだの、どこが人手不足だの。

「そのうち、仲良うなったらな」

 広之が、ふと思いついたように言う。

「京都とか、ええかもしれませんね」

「吉野の桜も、皆で見たら楽しいやろなぁ」

 誰かが笑う。「それ、ええですな」

 夢みたいな話や。

 けれど、こういう話ができる空気が、何より心地よかった。

 会は、穏やかに終わった。

 酒も深追いせず、時間も守った。

 その数日後のことや。

 家で帳面を見ていると、お高が何気ない顔で言う。

「そういえば」

 嫌な予感がした。

「一年おとなしくしながら」

「どこぞに男衆で行こうとしてるみたいやね」

 博之の手が、一瞬止まる。

「……は?」

「そこで、芸者呼ぼうとしてんのけ?」

 心臓が、どくんと鳴った。

「誰からそんな話聞いてん」

 思わず声が低くなる。

 お高は、さらっと言う。

「そんなん、言われへん」

 一拍置いて、続ける。

「婦人会でな」

「ちょっとした噂になってたから」

「耳に入っただけ」

 背筋が、ひやりと冷える。

 まだ、何も決めてへん。

 話に出ただけや。

 それでも、もう伝わっている。

「……そんなつもりはない」

 広之は、正直に言う。

「ただ、話しただけや」

「せやろな」お高は、あっさり頷いた。

「でもな」目だけは、笑っていない。

「そういう話は」

「もう、その時点で広がるねん」

 広之は、何も言えへんかった。

 旦那会は、楽しい。

 せやけど、同時に、

 婦人会という網が、すぐ隣に張られている。

 広之は、その晩、布団に入りながら思った。

 人と集まるいうのは、

 自由が増えることやない。

 見られる目が増える、いうことや。

 六月の夜は、蒸し暑かった。

 背中のひやりとした感覚だけが、

 なかなか消えへんまま、残っていた。

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