博之が旦那会を作ったことでお高が婦人会をつくってしまうwww
旦那会の話が一段落した、その晩やった。
帳面を閉じて、ほっと一息ついたところで、お高がぽつりと言う。
「……博之さんが、そんなこと考えてるんなら」
その言い出し方が、すでに嫌な予感を含んでいた。
「私も、婦人会でも作ろうかな」
博之は、思わず顔を上げた。「……は?」
お高は、悪びれもせず続ける。
「いやいや、変な意味やないよ」
「今、お腹に子どもおるやろ」
「正直、ちょっと寂しいねん」
声は穏やかやが、本音やった。
「昼間、家におってもな」
「こうやって喋れる輪があったら、ええなって思っててん」
博之は、口を開きかけて閉じた。
否定できる理由が、ひとつも浮かばへん。
「せやからな」お高は、さらに畳みかける。
「博之さんたちが羽伸ばすんやったら」
「私らも、同じ日とは言わんけど、お茶会でもしよかなって」
にこっと笑う。
逃げ道が、完全に塞がる。博之は、心の中で呻いた。
自分が旦那会やる言うて、あれだけノリノリで説明した手前、
「嫌や」とは、どうしても言えへん。
「……まぁ」苦し紛れに言う。
「料理教室きっかけやしな」
「せやろ?」お高は、すかさず頷く。
「私も十分、関係あるやん」
こうして、婦人会が決まった。
止めようにも、理由がない。
むしろ、理屈では正しい。
「それにね」お高は、少し声を落とす。
「私らは私らで、噂話も集められるやろ」
博之の背筋が、ひやりとした。
「面白い話があったら」
「また、博之さんに教えたげるわ」
その一言で、場の温度が一段下がる。
情報網。しかも、家庭内直結。
博之は、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「いや、こっちはな」お高が念を押すように言う。
「芸者呼ぶとか、そんな話ちゃうで」
それを聞いて、博之は思わず頷く。
「……うん」「楽しく」「美味しいもん食べて」
「ゆっくり喋るだけ」至って健全。
文句の付けようがない。
せやのに、博之は分かっていた。
こっちの旦那会より、よっぽど情報が集まるやつやと。
誰がどこで何を言うたか。
どの店がどうやとか。
誰の家がどうやとか。
全部、笑い話として流れながら、
ちゃんと芯だけ残る。
博之は、何も言えへんかった。
口を出せば出すほど、怪しくなる。
止めれば止めるほど、深読みされる。
結局、ただ一言。
「……ええんちゃう」
それが精一杯やった。
お高は、満足そうに頷いた。
「ほな、決まりやな」
帳面には、月に一回、旦那会。
その横に、いつの間にか、婦人会。
博之は、灯りの下でその二つを見比べて、
小さく息を吐いた。
商売の縁を広げるつもりが、
見張りの目も増えた。
けれど、これもまた、
家族が増えるいうことなんやろ。
博之は、そう自分に言い聞かせながら、
何も口出しできへんまま、夜を迎えた。




