一人で考えても限界。そうだ、旦那会を作ろう。お高に釘を刺される。
博之は、ふと手を止めて思った。
自分一人で考えるには、もう限界がある。
店のこと、街のこと、人のこと。
頭の中で組み立てても、どうしても同じところをぐるぐる回る。
せやけど、世の中には、思わぬところに商売の縁が転がっている。
「……せや」思いついたのが、旦那会やった。
料理教室をきっかけに縁が決まり、すでに何組かは所帯を持った。
その旦那衆を集めて、飯を食いながら話をする。
表向きは世間話。ついでに商売の話。
場所は、こちらで押さえる。費用も、こっち持ち。
せやからこそ、ちょっとええ店。
がやがやせん、ゆったり話せるところで、昼に二、三時間。
「水いらずで、色々話しましょう」
「商売の話も、含めてな」そう言って声をかけると、
旦那衆の反応はえらく良かった。皆、乗り気や。そらそうやろ。
昼間に、ええ飯食うて、気楽に話す場なんて、そうない。
その話を家で切り出すと、お高がすぐに眉を動かした。
「……昼間に芸者呼ぶとか、考えてへんやろな」
博之は、慌てて手を振る。
「いやいや、そんなつもりはない」
けれど、つい口が滑る。
「でもな、見識を広めるいう意味では、そういう場も――」
最後まで言い切る前に、お高が被せた。
「三井の情報網、なめたらあかんで」
その一言で、空気が凍る。
「昼に何したかなんて、すぐ耳に入る」
「変なこと考える前に、やめとき」
博之は、口を閉じた。「……はい」
さらに追い打ちが来る。「そもそもな」
「家族に不満があるなら、嫁に直接言えばええねん」
その場にいたら、きっと皆、背筋が凍ったやろう。
博之も、想像して背中が寒くなる。
「いや、まぁ」苦笑いで場をつなぐ。
「そんな深い話ちゃう」
結局、落としどころは決まった。
芸者は呼ばん。精のつくもんを食う。
酒はほどほど。仕事の話が中心。
それを、月に一回。
それならええやろ、ということで、お高の許しが出た。
いざ顔ぶれを思い浮かべると、なかなか面白い。
鍋屋の旦那。味噌屋の倅。
炭問屋。桶屋。
米を扱う家の人間もおる。
ええとこばっかりや。
気取ってるわけやない。
ただ、仕事を知っている。
博之は考える。
ここで、うちの飯の札を配る。
割引いうほど露骨やなく、飯のチケットとして。
「食うてみて、感想聞かせてください」
「噂も、教えてください」
それだけでええ。
商売の縁は、押して作るもんやない。
飯を挟んで、自然に転がるもんや。
話はそこで終わった。
旦那会をやる。
月に一回。昼。
精のつくもん。
博之は、帳面にその予定を書き込んだ。
少し楽しみで、少し怖い。
人が集まると、話も集まる。
話が集まると、責任も集まる。
それでも。一人で考え込むよりは、よほどええ。
そう思いながら、博之は次の段取りを考え始めていた。




