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博之が着々と店を広げる。豚は天王寺を避ける。鶴橋方面は親子丼競合がでてくる

 街を歩いていると、暖簾の外れた店が目につくようになった。

 急に、ではない。じわじわと、だ。

 客足が減った店、跡継ぎの話がつかなかった店、体を壊した店。

 理由はそれぞれやが、「もう潮時やな」という空気は、どこも似ていた。

 博之は、そういう店を無理に引き止めることはせえへん。

 代わりに、その場所を見る。人の流れ、日当たり、匂い。

「ここなら、角煮やな」

 単価の高い豚の角煮丼屋を、一軒出した。

 親子丼ではない。豚汁でもない。

 重たくて、強い一杯。廃業する店主にとっても、

 店を潰した後に、また火が入るのは悪い話やなかった。

 天王寺方面は、概ね順調やった。

 寺社も多く、決まりごとも多いが、筋を通せば話は早い。

 次は、豚汁を一軒。それと、少し離して親子丼屋を一軒、いや二軒か。

 そんな段取りが見えてきていた。

 問題は、北側の向こうや。

 鶴橋方面では、蕎麦屋が動き始めていた。

 蕎麦の出汁で親子丼を作り、定食として出す。

 一軒、二軒と、同じことを考える店が出てくる。

 味は、まだ確認できてへん。

 せやけど、ここで親子丼を真正面からぶつけるのは、得策やない。

 博之は、親子丼を引いた。代わりに、角煮丼を置く。

 甘辛く、濃く、腹に残る。

 蕎麦の出汁とは、喧嘩せえへん。

 同じ肉でも、方向が違う。

 無駄な争いは避ける。

 街で人気を取ろう思たら、それが一番や。

 豚汁屋を要にして、

 隙間に親子丼。

 重たいところには角煮丼。

 地図の上で線を引くように、店を考える。

 鶴橋面は、肉を食う街や。働き手も多い。

 美味いもんは、ちゃんと食うてくれる。

 そこを信じて、焦らず進める。

 最近は、動ける時間が減った。

 夕方には家に帰る。

 それだけで、選択肢は半分になる。

 せやからこそ、

 信頼できる人間を、増やさんとあかん。

 のぶ。さきちゃん。古参衆。

 次は、誰を上に上げるか。

 新しい店に、誰を入れるか。

 給金には、糸目をつけたくない。

 中途半端な報酬で、人の腹は括られへん。

 帳面を閉じ、博之は次の寄り合いを思い浮かべる。

 誰が、どんな顔で座るか。誰が、どこを任せられるか。

 それを話すのが、今は少し楽しみやった。

 店は増える。責任も増える。

 せやけど、独りではない。

 地図を畳みながら、博之はそう思った。

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