表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/189

育児に備えて権限を委譲していく

博之は分かっていた。もう、全部は見切れへん。

店の数も、人の数も、町の広さも、最初とは違う。

せやから、見回りを、のぶとさきちゃんに半分ずつ任せる。

それを正式な仕事にする。曖昧にせん。呼んで、はっきり言うた。

「わしの代わりに、回ってくれ」「その分、給金は2両ずつ上げる」

 二人とも、少し驚いた顔をした。続けて言う。

「それとは別にや」

「1.2両分くらいの経費は、自由に使ってええ」

 使い道は細かく決めへん。報告だけあればええ。

 信じる、という形で渡す。のぶには、男衆の方を任せた。

 以前からやっていた、五百文ずつ渡す呑み代の仕組み。

 あれを、もう少し広げてええと伝える。

「ただ配るだけやなくてな」

「誰が、どんな時に、何で困ってるか、見てやれ」

 仕事がうまく回った時。後輩を守った時。

 そういう時に、紙を切って渡す。

 金額やなく、見てるぞ、という合図や。

 さきちゃんには、女衆を頼んだ。

「お茶会、やってみ」そう言うと、少し困った顔をした。

「団子とお茶だけやったら、寂しいやろ」

 博之は笑って言う。「かんざしでも、なんでもええ」

「季節のもんでも、小物でも」

 五十文、百文を細かく刻む話やない。時々でええ。

 ほんまに頑張ってる子がいたら、ちゃんと“ご褒美”を出してやれ。

「覚えといてほしいのはな」

「その子らが、誰かに話したくなるかどうかや」

 さきちゃんは、ゆっくり頷いた。

 場を作る仕事は、得意や。

 古参衆にも声をかけた。

「お前らも、ちょこちょこ見回ってくれ」

「声かけるだけでええ」

「何かあったら、のぶかさきちゃんに流してくれ」

 こうして、博之が今まで一人でやってきたことを、

 少しずつ下に流していく。全部は手放さへん。

 せやけど、抱え込まん。不思議なもんで、

 権限と、少しの自由な金を渡すと、空気が変わった。

「いつか、ああなりたい」

 そういう目で、古参衆を見る者が増えた。

 福の神みたいに、

 怒らず、潰さず、裏で支える。

 そんな役割に、憧れが生まれる。

 店は増えている。

 忙しさも増えている。

 せやけど、現場の士気は落ちてへん。

 むしろ、上がっている。

 博之は、少し離れたところから、それを見ていた。

 自分が全部やらんでも、回る。

 回るどころか、前よりよく動く。

 それが分かっただけで、十分やった。

 福の神は、一人である必要はない。

 増やせばええ。

 博之はそう思いながら、

 次の見回りの予定を、静かに帳面に書き足した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ