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始めの町と西と北に触手を伸ばす。陳情の交通整理をする

 始まりの町は、大阪の南東、上町台地の端にあった。

 坂があり、風が抜け、古い道が残る。隣は天王寺の勢力下。

 寺社が多く、信心が息をしている町や。博之は、ここでは急がんと

 決めていた。押し込めば、跳ね返る。せやから、溶け込む。

 親子丼屋は、工夫から始めた。十一日と二十二日。

 親子の日。親子丼弁当を一組二つ、六十文。

 派手な割引やない。ただ、「親子で食う理由」を添える。

 これが、効いた。子どもを連れた親が増え、

 年寄りが孫を連れて来る。弁当は、家で食われる。

 町の中に匂いだけが残る。「ええやり方やな」

 そう言われるようになった。北の鶴橋方面にも、

 一軒、親子丼屋を出した。肉の町。食い慣れた舌。

 ここは、理屈より味や。親子丼は、余計なことをせん。

 それで、受け入れられた。店が増え、暖簾が並ぶにつれ、

 博之の立ち位置も変わっていく。いつの間にか、「町の顔」

 みたいな扱いをされるようになった。相談が増える。陳情も来る。

 直接やなく、掲示板に書かれることも多い。「隣の店がうるさい」

「通りに物を置くな」「誰が順番を守らん」些細な話ばかりや。

 せやけど、積もると重い。古参衆も、疲れていた。現場を回し、

 店を支え、人を育て、そのうえで町の揉め事まで抱える。

 限界が見えてきた。博之は、ある晩、皆を集めた。酒は出さん。茶だけや。

「全部、拾わんでええ」そう切り出した。

「助けるのは大事や。せやけど、交通整理せな、潰れる」

 決めたことは、三つ。まず、受付を二人置く。

 直接話させへん。必ず紙に書かせる。

 次に、内容をざっくり分ける。

 できること。できへんこと。時間がかかること。

 最後に、裁く日を決める。三日に一度。

 緊急以外は、その日まで触らん。

「今日言うたから、今日どうにかなる、はやめる」

 それだけで、空気が変わる。

 紙に書かせると、怒りは薄まる。

 書けへんことは、たいてい感情や。

 感情は、寝かせると形が変わる。

 古参衆は、少し楽になった。

 全部を背負わんでええと分かったからや。

 博之は、帳場で紙を眺めながら思った。町は、生き物や。

 せやけど、流れを作らんと、詰まる。

 親子丼は、町に溶け始めている。

 寺社の影の中で、ゆっくりと。

 北にも、西にも、無理なく伸ばす。

 そのためには、声を整理せなあかん。

 助ける順番を決める。断る理由を作る。

 それも、顔になった者の仕事や。

 博之は、掲示板の前で立ち止まった。

 紙が、静かに揺れている。ここは、始まりの町。

 急がず、溶けて、道を空ける。そうやって、

 次の一手を迎える準備をしていた。

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