表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/189

居酒屋に情報集まりまくったので掲示板を張ってみる

 街の中での存在感が、はっきりと変わってきたのを感じたのは、

 居酒屋に立っている時やった酒を出しているだけで、飯を出しているだけで、

 人が寄ってくる。それだけやない。

 話が集まってくる。「実はな……」

 そう前置きして、困り事を打ち明ける客が増えた。

 職人の手が足らん話。店を畳むか迷っている話。

 小さな揉め事。縁談――つまり、金や取引の話。

 最初は、博之も聞くだけやった。

「そうかいな」「それは難しいな」

 それで済んでいた。けど、数が増えてくると、

 ただ聞き流すには、もったいなくなってきた。

「ここ、話が溜まる場所になってるな」

 そう気づいたのは、ある夜、帳場で酒を温めながらやった。

 誰かの悩みを、別の誰かが、たまたま解決できる。

 その線が、店の中で、何度も交差している。

 博之は、ひとつ思いついた。「掲示板、置こか」

 翌日、居酒屋の壁に、木の板を一枚打ち付けた。

 紙と、墨と、糊。「尋ね人」「人手募集」

「小口の商談・縁談」「困り事」最初は、半信半疑やった。

「こんなん、貼る人おるんですか」

 さきちゃんが聞く。「おらんかったら、それまでや」

 博之は、軽く言った。せやけど、その日のうちに、一枚貼られた。

「腕のええ鍛冶、知りませんか」次の日には、

「店を譲りたい。場所は○○」さらに、

「短期で米を融通してくれる先を探してます」

 紙が、増えていく。それを見て、客同士が話し始める。

「これ、俺知ってるで」

「それなら、あっちの店がええ」

 居酒屋は、酒を飲む場所でありながら、

 情報が行き交う場所になっていった。

 一方で、博之は、細路地の他の店にも動いた。

 豚汁屋。親子丼屋。小さな板を、入口の横に置かせる。

「居酒屋に、こんな話が入ってるで」

 そう書いた紙を、貼り出す。客は、足を止める。

「へえ……」「こんな話、あるんか」

 すると、また声がかかる。

「それやったら、俺も一個、貼ってええ?」

 こうして、情報は、店から店へ回り始めた。

 もはや、豚汁屋でも、親子丼屋でも、居酒屋でもない。

「何屋なんや、ここ」冗談交じりに、そう言われるようになる。

 博之は、苦笑いする。「俺も、よう分からんくなってきた」

 飯は出している。酒も出している。でも、それだけやない。

 人が集まる。話が集まる。次の動きが、生まれる。

 のぶが言った。「街の縁側、みたいになってますね」

「せやな」博之は頷く。「縁側は、居心地がええと、人が長居する」

 長居すれば、話も増える。その中から、商いも、助け合いも、

 生まれる。さきちゃんが、少し心配そうに言う。

「でも、手広くしすぎると、収拾つかなくなりません?」

「そこはな」博之は、掲示板を見る。「貼るだけや」

 判断は、店がせえへん。「繋ぐだけ。解決は、当人同士」

 線を引く。それが、長く続けるコツやった。

 掲示板は、今日も少しずつ埋まっていく。

 紙の重なりは、街の声の重なりや。

 もはや、ただの豚汁屋でも、親子丼屋でもない。

 何屋か分からん。せやけど、街に必要な場所には、

 なってきている。博之は、酒を温めながら思った。

 店が大きくなる、というのは、数が増えることやない。

 役割が増えることなんや、と。この街で、

 また一つ、面白い歯車が回り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ