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のぶとさきちゃんを代表代行にすえ、古参衆と現状十人体制で話し合う方針

現場を少し引いて見るようになってから、博之の中で景色が一段変わった。

今までは、鍋の前、帳場の前、声が届く距離が世界の全部やった。

 せやけど、見回りをして、仕入れ先と話し、

 紙に味を書き残しながら歩いていると、

 店そのものが一つの生き物に見えてきた。

 その時、自然と浮かんだのが、のぶと、さきちゃんの顔やった。

「この二人、もう一段、役を上げてもええな」

 博之は、そう腹を決めた。呼んだのは、閉店後。

 いつもの帳場の奥。「今日はな、

 ちょっと大事な話や」二人とも、察した顔をする。

「まず、給金の話や」博之は、間を置かずに言った。

「今の給金に、三両ずつ上乗せする」さきちゃんが、思わず目を見開いた。

「そんな……」「理由がある」博之は、はっきり言った。

「もう、二人とも“現場の要”やない」

 のぶが、首を傾げる。「と、言いますと?」

「俺がおらん時、店を代表して動く立場や」

 言葉を選びながら続ける。

「名前はな、“代表代行”みたいなもんでええ」

 場が静まる。「俺の代わりに、判断してええ。

 止めてもええ。進めてもええ」

 それは、責任を渡すということやった。

「その代わり、逃げ場はない」

 のぶが、ゆっくり息を吸った。

「……重たいですね」「せや」博之は頷く。

「でも、今の二人なら、背負える」

 さきちゃんは、少し考えてから言った。

「現場から完全に離れるわけじゃない、ですよね」

「離れへん。せやけど、一段上から見る役や」

 そして、次の話に移る。「それに合わせてな、

 組織も少し変える」今までの“古参”の集まり。

 現場を回す中核。「その上に、もう一段、作る」

 のぶと、さきちゃんを見る。「そこに、二人を入れる」

 古参のさらに上。現場と経営の間。

「方針を決める場所や」さきちゃんが、はっとしたように言う。

「じゃあ、古参は……」「人数、調整する」

 博之は、静かに説明した。

「今、古参は四人。さきちゃんが抜ける」

「その代わり、一人、新しく入れる」

 のぶも同じや。「のぶも、代表代行側に回る」

 結果として、

 ・代表代行:のぶ、さきちゃん

 ・古参衆(幹部料理人4人+給仕衆4人):計十人この布陣になる。

「この十人でな」博之は、机に手を置いた。

「店の方針、人の配置、新しいこと」「全部、話して決めたい」

 現場の声だけでもあかん。帳面の数字だけでもあかん。

「だから、話す場を作る」のぶが、少し笑った。

「ようやく、店らしくなってきましたね」

「今までは、俺の背中で回してただけや」

 博之は、そう言って肩をすくめた。

「これからは、背中やなくて、仕組みで回す」

 さきちゃんが、深く頷いた。

「責任、ちゃんと引き受けます」

「頼む」博之は、二人を見た。

 現場に立つ人間が育つ。判断する人間が育つ。

 それは、店が“個人の技”から

 “組織の力”に変わる瞬間や。

 この十人で、まずは話す。迷ったら、止まる。

 進む時は、揃って進む。博之は思った。

 自分が一段上に立つ、というのは、

 偉くなることやない。任せる覚悟を持つことや。

 この形なら、店は、勝手に壊れへん。

 そう、静かに確信していた。

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