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有馬温泉新婚旅行前に幹部集めて話し合い。今後の博之の働き方について

有馬に行く話をしたのは、閉店後のことやった。

鍋も洗い終わり、帳場の灯りだけが残っている。

のぶと、さきちゃん、それに居酒屋と親子丼屋の古参を集めた。

「来週な」ひろゆきは、ゆっくり切り出した。

「一週間、店を任せたいと思ってる」一瞬、空気が止まる。

「有馬に行く。新婚旅行や」その言葉で、場がふっと緩んだ。

「ええやないですか」

 最初に声を出したのは、さきちゃんやった。

「やっと行くんですね」「おめでとうございます」

 のぶも、素直に言った。笑いも起きる。

 祝う空気は、間違いなくある。

 けど、ひろゆきは続けた。「ただな」

 声の調子が、少し変わる。

「遊びだけやない。正直に言うと、

 俺らがおらん時に、店がどうなるかも見たい」

 さきちゃんが、すっと背筋を伸ばした。

「……そうですよね」「うん」のぶが、頷く。「最近、特に回ってますし」

 ひろゆきは、二人を見た。

「親子丼屋も、居酒屋も、今が一番、気をつけなあかん時や」

 調子がええ時ほど、崩れやすい。

「味、段取り、声掛け。どれも、今まで通りで頼む」

「はい」「特別なことはせんでええ。いつも通りを、ちゃんとやる」

 のぶが口を開いた。「ひろゆきさんが居ないってこと、

 逆に、店の試験みたいなもんですね」「せや」

 ひろゆきは、隠さず言った。「俺がおらんでも回るなら、

 それは店が一段、強くなったってことや」

 さきちゃんが、静かに笑った。

「緊張しますけど……やりがいありますね」

「頼むで」ひろゆきは、少しだけ頭を下げた。

 それから、少し話題を変える。

「もう一つ、言っときたいことがある」皆の視線が集まる。

「俺な、旦那としては、現場に張り付くより、

 少し引いて見た方がええと思ってる」

 のぶが、意外そうに眉を上げた。「引く、ですか?」「せや」

 ひろゆきは、ゆっくり説明する。

「俺がずっと居ると、皆、無意識に頼るやろ」

「……確かに」「せやけど、他の店の様子見たり、

 顔見せして回ったりする方が、現場の士気が上がる時もある」

 さきちゃんが、納得したように言った。

「任されてる、って実感できますもんね」

「そういうことや」ひろゆきは、続けた。

「だから、有馬の一週間は、ただの休みやない」

「店にとっても、俺にとっても、

 次の段階に行くための時間や」

 のぶが、真面目な顔で言った。

「任されてるって思って、きっちり回します」

「親子丼の方も、目を光らせときます」

 さきちゃんも、はっきり言う。

「居酒屋は特に、人の出入りが多いですし」

「頼もしいな」ひろゆきは、少しだけ笑った。

「俺とお鷹は、湯に浸かって、頭空っぽにしてくる」

「帰ってきた時に、“ちゃんと回ってました”って言えるように」

 その言葉に、場が、きゅっと締まった。

 祝いやけど、遊びやない。ひろゆきは、最後に言った。

「一週間後、戻ってきた時に、今よりええ顔してたら、それが一番や」

 のぶとさきちゃんは、同時に頷いた。

 その背中を見て、ひろゆきは、少しだけ安心した。

 店は、もう、自分一人のもんやない。

 任せられる。任せてええ。そう思えた夜やった。

 有馬の湯は、もうすぐそこまで来ている。

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