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中期目標の居酒屋の準備を始める

 いよいよ、居酒屋を作る。そう言うと、大層な話に聞こえるが、ひろゆき自身は、

 どこか淡々としていた。新しい勝負というより、ここまでやってきたことの集大成を、

 形にするだけやった。箱は二十席。詰め込まない。

 客同士の肘が当たらんよう、少し余裕を取った配置にする。

「ゆっくり飲ませたい」 それが一番や。

 料理人は二人。どちらも、これまでの店で火を見てきた人間や。

 下働きと給仕は三人。場を回す役に徹する。それとは別に、

 燗酒師を一人置く。酒を湯に浸し、温度を見て、客に出すだけの役や。

「酒は、雑に扱ったらあかん」博之は、そこだけは譲らへんかった。

 混んだ時は、二時間制。だらだら居座らせへん。

 せやけど、追い立てるような空気も作らへん。

 そのための席数であり、そのための人の数や。

 仕込みは、新しく増やさへん。これまでの店で作っているものを、

 少しずつ持ち寄る。豚汁屋の豚汁・鶏汁。親子丼。

 茄子の煮びたし、豆腐田楽、だし巻き卵、

 親子丼用の鳥汁の出汁ガラを割り下で炒めなおした突き出し。

 それを、居酒屋で温め直す。火を入れ直し、整える。

 無駄を増やさへん。負担も増やさへん。

 新しく足すのは、鯖の味噌汁くらいや。酒に合う。

 腹にも落ち着く。親子丼は、締めの一品に回す。

 主役ではない。でも、最後に出てくると、

 場がきれいに終わる。

「これでええ」博之は、何度もそう確認した。

 この居酒屋は、一つの店で完結する場所やない。

 これまで作ってきた店同士を、静かにつなぐ場所や。

 忙しく回す必要はない。派手に稼ぐ必要もない。

 ただ、ここに来たら、「全部、つながってるな」

 と分かる場所。人の配置も、役割も、どこか無理がない。

 だから、準備は静かに進んだ。慌てることもない。

 揉めることもない。鍋の数を数え、

 器を揃え、酒の温度を確かめる。

 それだけや。ひろゆきは、帳面を閉じて思った。

 増やすことは、もう十分やった。これからは、まとめる番や。

 居酒屋は、新しい挑戦やなく、これまでの答えを置く場所。

 着々と、本当に着々と、準備は進んでいた。

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