よその親子丼屋がうまくいかない姿が見える
よその親子丼屋が、うまくいってへんのは、もう皆気づいていた。
最初は景気のええ話やった。看板を替え、紙を貼り、
「親子丼始めました」そんな店が、横丁の外にぽつぽつ増えた。
けど、続かん。昼はそこそこ出ても、夜が止まる。
味が日によって違う。人がもたん。「最初だけやったな」
そんな声が、自然と出る。博之は、それを見て、何も言わんかった。
せやけど、ある日、親子丼屋の人間を集めて、静かに話した。
「外、見てるやろ」誰も否定せえへん。
「真似されるのは、しゃあない。けど、うまくいってへん
理由も、もう分かるやろ」しん、と静かになる。
「向こうはな、親子丼だけ見とる」ひろゆきは、淡々と言った。
「鍋の裏を見てへん。火の重さも、時間の重さも、知らん」
親子丼は軽い。そう見える。
けど、それは結果が軽いだけや。
「うちの親子丼は、豚汁屋で何時間も火を見てる
人間がおって、初めてあの味が出る」
割下を入れたら味が決まる、そんな単純な話やない。
「向こうは、そこを飛ばした。せやから、詰まった」
ひろゆきは、少し間を置いてから言った。
「それを、見返せ」
強い言葉やない。せやけど、重かった。
「真似した店を、笑う必要はない。
けど、同じになったら終わりや」
数字は、向こうの方がええ日もある。
一時的に、客が流れることもある。
「それでもな、最後に残るのは、流れを持ってる店や」
ひろゆきは、豚汁屋の方を見た。
「あっちは、毎日、変わらず炊いてる。
派手やない。せやけど、逃げ場がない仕事や」
逃げ場がない仕事をやってるから、
逃げ足の速い親子丼が回る。
「二軒一組や」 何度も言ってきた言葉を、もう一度置く。
「片方だけ見て、楽そうやから選んだら、
必ずどこかで詰まる」他所が詰まっているのは、
偶然やない。順番を飛ばした結果や。
「せやから、外を見て、安心せえ」ひろゆきは、そう締めた。
「うまくいってへん店を見るのは、嫌な気分になるかもしれん。
けど、それは、答え合わせや」
親子丼屋が、稼ぎ頭になっている。それは事実や。
でも、同時に、壊れやすい場所でもある。
せやから、裏を知ってる人間がやる。
火を見たことがある人間がやる。
それが、他所との一番の差や。
ひろゆきは、最後にこう言った。
「見返すいうのは、潰すことやない。
残ることや」その言葉に、誰も口を挟まなかった。
外では、また一軒、親子丼の紙が剥がされたらしい。
中では、今日も変わらず、鍋に火が入っている。
それでええ。それが、答えや。




