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やはりまねされる親子丼屋


 兆しは、いつも小さい。最初は、町の外れの飯屋やった。

 看板を書き替えたわけでもない。ただ、壁に紙が一枚貼られただけや。

「親子丼 始めました」それを見た時、博之は何も言わんかった。

 誰かが「あれ、真似ですかね」と言うたが、「ほうか」とだけ返した。

 次は、別の筋の居酒屋や。昼だけ親子丼を出す、という話が回ってきた。

 味は、悪くないらしい。値段も、うちと大差ない。

 でも、決定的に違う。「続かへんやろな」博之は、そう思っていた。

 親子丼は、簡単そうに見える。鶏を割下で煮て、卵でまとめて、

 飯に乗せる。それだけ見たら、誰でもできる。

 せやけど、うちの速さは、うちの出汁は、豚汁屋で炊いている

 鶏汁があってこそや。鍋の前で、何時間も火を見ている人間がおる。

 毎日、同じ匂いを嗅いで、同じ色を確かめている。

 その積み重ねの上に、親子丼が乗っている。

 そこを飛ばしたら、どうしても、どこかで詰まる。

 案の定やった。「昼は回ったけど、夜は出えへん」

「味が安定せえへん」「人がもたん」

 そんな話が、ぽつぽつ聞こえてくる。

 ひろゆきは、だからこそ、焦らへんかった。

 真似されること自体は、止められへん。

 親子丼という料理を、独り占めする気もない。

 問題は、中身を理解しているかどうかや。

 せやから、博之は中の人間に言う。

「よう見とけ。外が真似し始めた時ほど、

 うちは中を揃えなあかん」

 親子丼屋だけ見たら、確かに、金はええ。

 一日一両。月三十両。数字だけ見たら、派手や。

 でも、その派手さの裏で、豚汁屋は、黙って火を見続けている。

「二軒で一つ」それを忘れた瞬間、うちも、他所と同じになる。

 博之は、他所の真似を笑わへん。けど、迎合もしない。

 ただ、鍋を守る。人の流れを守る。

 速さと重さの両方を、手放さへん。

 真似され始めた、ということは、

 商いとしては、一段上に行った証でもある。

 せやけど、本当に差が出るのは、

 流行りが落ち着いた、その後や。

 博之は、そう見ていた。

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