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九軒目親子丼屋の葛藤。肝は豚汁屋の鳥汁の出汁や


親子丼屋は、正直、儲かりすぎていた。

一日八十杯。一杯五十文。売上は毎日きっちり一両。

月で見れば三十両。原価は三割。諸経費を引いても、

手元に残るのは十七両ほど。豚汁屋の、ちょうど倍や。

しかも流れが早い。座って、出てきて、食うて、立つ。

滞らへん。数字だけ見たら、これ以上ない商いやった。

ひろゆきは、嬉しくなかったわけやない。

けど、手放しでは喜べへんかった。

「これは、問題にもなるな」親子丼は、真似されやすい。

 鍋も特別やない。材料も、どこにでもある。

 うちの親子丼の肝は、そこやない。

 豚汁屋で炊いている、鶏汁の出汁や。

それを分かってへんと、「同じもん出してるのに」

 という不満が、必ず出る。味が出えへん理由を、

 腕のせいにされても困る。 せやから、博之は

 決めていた。この店は、固定せえへん。

 時々、人を入れ替える。慣れさせすぎへん。

 「親子丼屋だけ」の人間を作らへん。

 空いた時間には、希望する者を豚汁屋に

 連れて行った。鍋の前に立たせ、

 出汁の色、香り、火の入れ方を見せる。

「これが元や」

 そう言って、何度も示す。

 出汁は、勝手には生まれへん。

 親子丼は、そこから枝分かれしたもんや。

 豚汁屋で、腰を据えて炊いているからこそ、

 親子丼が速く、強く出せる。

 その関係を、体で覚えさせる。

「二軒で一組や」博之は、口酸っぱく言った。

「親子丼だけで完結する思たら、あかん。

 片方だけ伸ばしたら、もう片方が歪む」

 数字は、確かに魅力的や。親子丼屋だけ増やせば、

 帳面は一気に軽くなる。けど、それをやった瞬間に、

 仕込みは追いつかん。人は疲れる。不満は溜まる。

 それは、もう見えていた。せやから、急がへん。

 親子丼屋は、稼ぐ場所であると同時に、学ばせる場所でもある。

 流れの速さを体で覚え、その裏で、汁を炊く時間の重さを知る。

 その両方を経験させて、初めて「次」が見える。

 博之は、帳面を閉じて思った。この商いは、数字だけ見たら、

 もう一段いける。けど、数字だけで行ったら、必ず壊れる。

 親子丼屋は、稼ぎ頭や。せやけど、主役やない。

 主役は、鍋と人と、流れや。二軒一組。

 それを崩さん限り、この商いは、まだ伸びる。

 そう、確信していた。

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