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三井の大旦那(お義父さん)へ進捗報告兼ねた里帰り

 そろそろ、三井の大旦那ことお義父さんのところに挨拶に行くか。

 博之がそう思ったのは、九軒目の親子丼屋が、ようやく落ち着いて回り出した頃やった。

 忙しさの山を越え、流れが見えてきた時、人は自然と、次に誰に見せるかを考える。

 一つは、単純に感想が欲しかった。

 親子丼がうまくいっている。せやけど、それを「商いとして」どう見るかは、

 お義父さんの目が一番信用できる。もう一つは、気遣いや。

 嫁のお高さんも、たまには顔を合わせて、他愛もない話をした方がええ。

 商いばかりで、家の間を疎かにするのは、博之の本意やなかった。

 一品ものをいくつか。それに、親子丼を人数分ー包みを整え、三井の本家へ向かう。

 玄関で挨拶を済ませると、場はすぐに和んだ。料理を並べ、まずは一口。

「ほう……」親父は、黙って箸を進める。余計な言葉はない。

「今度な、こういう商品を出し始めてまして」ひろゆきは、改めて話した。

「親子丼です。今、少しずつ流行り始めてて、8軒目の豚汁屋と隣同士でやってます。

 二つで一つ、いう感じで回していこうと思ってまして」

 いわば、業務報告や。拡げ方は急がず、流れを作る。

 それを、ちゃんと説明する。親父は、うなずいた。

「無理して増やさんのは、ええな」その一言で、ひろゆきは肩の力が抜けた。

 婿殿は、商いも順調らしい。何やかんや言いながらも、お高とは仲良くやっている。

 それが何よりや。「大阪の料理番付、見たで」

 不意に、そう言われた。「うなぎや天ぷらに混じってな、お前の店が載っとるんが、

 めっちゃおもろかったわ」博之は、思わず笑った。町の名だたる料理の中に、

 自分の店が並ぶ。不思議な感覚や。ひと通り食べ終えた頃、話題は自然と

 別の方向へ行く。「ところで、子供はまだか」

 その一言に、博之は一瞬言葉に詰まる。けど、その前に、お高が口を開いた。

「この人、仕事ばっかりですからねえ」冗談めかして、こちらに話を振ってくれる。

 助け舟や。「いや、ほんま助かってます」博之は、正直に言った。

「お高さんが気を使ってお布団に誘ってくれるんで、助かってます」

 その瞬間や。「博之さん、何言うてんの!」 お高さん顔を赤くして怒った。

「そんなこと言うたら、一日口聞かへんで!」博之はバツが悪そうに手で謝る。

 場が、一瞬止まってから、笑いに包まれる。「ははは」

 三井の大旦那が、声を出して笑った。「仲ようやっとるのは、ええことや」

 その言葉で、場はすっと落ち着いた。商いがうまくいくのも大事や。

 けど、それを支える場が、ちゃんと温う保たれている。

 ひろゆきは、そう感じた。親子丼は、腹を満たす。

 けど、この夜は、それ以上のもんを、確かに満たしていた。

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