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九軒目親子丼屋が絶好調。早い美味い腹にたまる


九軒目親子丼屋の出店は、正直言うて、めちゃめちゃ早かった。

博之自身も、そこは自覚していた。慎重派やと思われがちやが、

八軒分の利益が毎月きっちり入ってくる状況になると、話は変わる。

失敗しても致命傷にはならへん。その余裕があった。それに、

頭で考えても分からんことがある。「これは一回、試してみな分からんぞ」

そう思った時点で、もう半分は決まっていた。

九軒目。親子丼屋は、あっさり立ち上がった。

 で、やってみて分かったのは、想像と違う部分やった。

「これ、人、一人増やした方がええな」

 初日から、はっきり見えた。鍋の前に一人、飯と盛り付けに一人。

 その二人だけでも回るには回るが、流れが詰まる。もう一人、

 受けと渡しをさせるだけで、驚くほど回転が良うなる。

 そして、売れる速さが異常やった。

 座った客の前に、親子丼が置かれるまでが早い。

 迷う客がおらん。食うのも早い。出るのも早い。

 気づいたら、鍋が空き、飯が減り、丼が足らん。

「鬼みたいな速さやな」誰かがそう言って、笑った。

 笑えるのは、ちゃんと売れてるからや。

 もちろん、楽なわけやない。短時間に集中して火を見て、手を動かす。

 気づけば、体は結構疲れている。けど、不思議なことに、時間は残った。

 ピークが鋭い分、山が早く終わる。

 昼の山、夜の山。そこを越えたら、あとは静かになる。

「思ってたより、自由な時間あるな」それが、博之の

 率直な感想やった。嬉しい悲鳴、というやつや。

 そんな中で、現場仕事の連中が言い出した。

「これ、弁当にして持ってけへんか?」

 最初は軽い冗談やった。けど、確かに理にかなっている。

 早い、温い、腹にたまる。「ほな、試しにやってみよか」

 決断は早かった。弁当は四十文。

 店で出すより安い。とりあえず十個だけ。

 結果は、即完売やった。並べたそばから消えた。

 呼び込みも要らん。「もうないん?」と聞かれる始末。

 ここで、また嬉しい悲鳴が上がる。

 作る数を増やすか。人を増やすか。店の動線を変えるか。

 課題は山ほど出てきたが、どれも前向きな悩みや。

「ええ悩みやな」博之は、そう思った。

 現場の連中も、顔が明るい。忙しいが、手応えがある。

 売れているという実感が、空気を軽くする。

 九軒目は、試しの店やったはずや。せやけど、気づけば、

 次の一手を考えさせる場所になっていた。

 商いは、動かしてみて初めて分かる。

 その速さも、疲れも、余白も。親子丼屋は、そう教えてくれた。

 そして、店を営む者たちは、皆ホクホクやった。

 この先の話を、自然と口にするくらいには。

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