表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/189

酒の買い付け進捗確認しながら話し合う


酒の買い付けを頼んでいた二組を、博之は夕方、真ん中の店に呼び出した。

仕込みの合間、鍋の火を少し落として、卓を囲む。「ほな、最近の酒、どうや」

声をかけると、呼ばれた二人組――どちらも酒好きやが酒の味見役としては

信用できる連中や――が、少し姿勢を正す。「だいぶ良うなってます」

「昔より、飲みやすいのも増えましたし、香りもええのが多いです」

博之は頷きながら、小皿に盛った突き出しを差し出す。

茄子の煮びたし、豆腐田楽、だし巻きの端。

「酒のあて食いながらでええから、正直に言え」

「はい」「今のところ、これや、って思うのは……

五本くらいですかね」「もうそんなに絞れたんか」

「ええ。まだ決めきってはないですけど、方向性は見えてきてます」

博之は「ほう」と声を出し、奥から一枚の紙を取り出した。

例の“料理番付”や。「ほな、ついでにこれ、見てみ」

二人が覗き込む。「……え?」「これ、料理の番付ですか」

「せや」「でな、一番下、よう見てみ」しばし沈黙。次の瞬間、

二人同時に吹き出した。「豚汁!?」「ほんまや、豚汁入ってる!」

「うちの店や」博之は、ちょっと照れたように言う。

「すごいですね……」「こんなん、普通入らんですよ」

「せやろ」「せやけどな、酒にも似たようなんがある」

そう言って、博之は続ける。「酒の番付や」

「酒にもあるんですか」「初めて聞きました」

「伊丹と灘が大半占めとる」「せやからな、今回の酒選びは、

これも頭に入れといてほしい」博之は、卓に肘をついて話す。

「料理は濃いめや」「せやから、酒は負けたらあかん」

「かと言うて、毎日飲めんほど尖っとってもあかん」

二人は真剣に頷く。「できればな」

「二、三種類に抑えたい」「二、三……」

「普段飲みできるやつ一つ」「ちょいええやつ一つ」

「それから――」博之は指を一本立てる。

「説明できる酒や」「説明……ですか」

「そうや」「居酒屋ではな、給仕の子がすすめる」

「味の違い、香りの違い、なんでこれが合うか」

「なるほど……」「松・竹・梅でもええ」そう言ってから、少し間を置く。

「せやけどな」「安くても、安すぎるのは要らん」

「値段で誤魔化す酒、ってことですね」

「せや」「うちは路地裏やけど、舐められたない」

二人は顔を見合わせて、笑う。「分かりました」

「でも……」一人が、遠慮がちに言う。

「いろいろ見るには……」「飲まなあきませんよね」

その瞬間、博之は苦笑いした。「そら、そうなるわな」

奥から、巾着袋を二つ出す。ちゃり、と音がする。

「一組、二千文ずつや」「えっ」「これで飲み比べしてこい」

「ええのあったら、仕入れて」「ついでに、こっちにも回せ」

一瞬の沈黙。次の瞬間、四人のうち二人は声を上げた。

「ええんですか!?」「俺らだけ、こんな飲ましてもろて!」

「ええねん」博之は笑う。「仕事や」「いや、でも……」

「めちゃめちゃ嬉しいです」「ちゃんと報告せえよ」

「味、香り、料理との相性」「はい!」「全力で飲みます!」

その言い方に、周りがどっと笑う。「仕事や言うてるやろ」

博之は呆れたように言うが、顔は柔らかい。

声を上げてない組の片割れの二人は巾着を握りしめて立ち上がる。

「ほな、伊丹から行きますか」「灘も回りたいな」

「喧嘩すなよ」「二人一組で決めてこい」

「了解です!」背中を見送りながら、博之は小さく息をつく。

「……ええ酒、来たらええな」

鍋の蓋を開け、湯気の向こうで、

新しい居酒屋の景色を思い浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ