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とり天から鶏の出汁汁と割り下を使った鳥炒め卵とじを作成してみると好評
「汁物か……」
博之は、まな板の前で小さく呟いた。
鳥は安い。扱いやすい。癖も少ない。
問題は“油を使わずに、満足感を出す”ことや。
長ネギを斜めに刻み、鶏を細かめに切る。
鍋で油はほんの少し。まずはネギと鶏をさっと炒め、余計な水分を飛ばす。
そこへ出汁。強くはせず、香りが立つ程度。
割下は醤油、みりん、砂糖を控えめに――甘くしすぎると飯が重くなる。
一煮立ちしたところで、卵を落とす。
完全には閉じない。半熟で止める。
「……汁まではいかんけど、悪ないな」
最初は小皿で出した。
常連が一口食べて、黙る。
二口目で、飯を掻き込む。
「これ、飯と交互にいけるわ」
「汁が軽いのがええな」
そんな声が続いた。
ならば、と博之は考える。
「どうせなら――」
飯の上に、そっとのせる。
出汁が白飯にしみ、鶏と卵とネギが一体になる。
「うまい」
「これ、ずっと食える」
箸の動きが止まらない。
汁物を求めて来る客が、飯をおかわりする。
博之は鍋を見ながら、静かに確信した。
これは“偶然の一皿”やない。
この店の流れから、生まれるべくして生まれたもんや。
——次は、名前やな。




