7・8軒目の立ち上がり好調。博之は新たな一品開発へ
七軒目、八軒目の立ち上がりは、もはや慣れたものだった。
古参組が前に立ち、段取りを切り、手前を張る。誰がどこに立てば詰まらないか、どこで声を出せば流れが変わるかを、体で知っている。博之は全体を見て、詰まりそうなところに一言添えるだけでよかった。
加えて、博之の結婚話が広まり、同時に役職付きが一気に増える。
「次は自分の番かもしれん」
「ここで踏ん張れば、店を任される」
そんな空気が、現場を一段引き締めた。給金だけではない。先が見えるというのは、人をこんなにも前向きにするのかと、博之自身も少し驚く。
一方で、博之の頭は次の手に向いていた。
この形は、ほぼ完成しつつある。人も育ち、店も回る。
だが、今の仕入れのままで、もう一段、何かできないか。
そこで、原点でもある一軒目で、試作を増やし始めた。
常連と顔を突き合わせ、感想をその場で聞きながら考える。
最初に試したのは、鶏の天ぷらだった。
天ぷらはすでに評判がいい。蕎麦つゆも安定している。
「合わせてみよか」
鶏なら重くないし、腹にもたまる。理屈は通っていた。
出してみると、味は悪くない。
だが、声は正直だった。
「軽いけど、油やな」
「揚げ物より、ここは汁がええわ」
油の値も高い。回転も思ったほど伸びない。
数日で、博之は引っ込めた。
引き際も早い。
帳面を見ながら、腕を組む。
悪くはない。だが、決め手に欠ける。
もう一ひねりいる。
常連とまた話す。
「この店は、やっぱり汁やな」
「疲れてる時に来るからな」
博之はうなずく。
軽くて、腹に残って、仕込みが重くなりすぎないもの。
今の仕入れで回せるもの。
答えはまだ出ない。
だが、こうやって考え続けられる余裕ができたこと自体が、店が一段上に行った証でもあった。




