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お高が博之の帳面を見て利益率の高さに驚く

七軒目、八軒目の人手集めが本格的に動き出した頃、

お高は改めて広雪に切り出した。

「ねえ」「一緒に店をやっていくんやったら」

「帳面、見せてもらってもいいですか」

博之は一瞬だけ間を置いてから、頷いた。

「ええで」「たいしたもんやないけどな」

奥の棚から取り出された帳面は、二年分。

紙は少し黄ばんで、端はめくれ、

字も決して綺麗とは言えなかった。

けれど。タカは、ページをめくるたびに目を細めた。

「……わかりやすい」

項目は簡潔で、入と出、日付、理由。

誰が見ても追えるように書かれている。

「この書き方」「現場で動きながらやないと、無理ですね」

博之は苦笑いする。「字は汚いけどな」

「あとで自分が困らんようにだけはしてる」

お高は、次第に表情を変えていった。

「……え」「ちょっと待ってください」

指が止まる。「この一軒で」「家賃と人件費払って」

「仕入れも入れて」「それで」

「月、平均八両、残してますよね」

博之は、あっさり言った。「まあ、そのくらいやな」

お高は思わず顔を上げた。「六軒で……」「月、五十両?」

「年で六百両……」言葉を失う。

「細路地で六軒やってるのは知ってましたけど」

「まさか、ここまでとは……」さらにページをめくり、

給金の項目で、もう一度止まる。

「……給金」「高すぎません?」

「普通、ここまで出しませんよ」

博之は肩をすくめた。「出さんと回らん」

「それだけや」お高は、深く息を吸った。

「この一軒で、これだけ」「あと三軒増やしたら」

「居酒屋も含めて」「単純計算でも」

「利益だけで年、千両、見えますよ」

しばらく、帳面を閉じてから言う。

「……すごい」「四十過ぎて」

「拾われて」「二年で、ここまで」

「数字だけ見ても、十分ですけど」

お高は、ゆっくりと広雪を見る。

「私が惚れたのは」「金額やないです」

「ここまでやって」「しかも、下の人たちとの関係が」

「こんなに、あったかい」「それが」

「一番、すごいと思いました」

博之は、耳まで赤くなる。

「……それ」「好いてくれる理由になるんか」

お高は、即答した。「なりますよ」

「だって」「ここまでしてる人」

「そうそういません」

少し間を置いて、続ける。

「だから」「続けてほしいです」

「これを」博之は、照れ隠しのように帳面をしまいながら言った。

「せやからな」「これ、一区切りついたら」

「隣の地区にも」「同じこと、できるようにしたい」

「人を育てる日、みたいなんも」「ちょこちょこ作って」

「細路地や居酒屋を」「大阪の街でも広げたい」

「そのためには」「教育、行き渡らせなあかん」

一瞬、声が低くなる。

「ただな」「昔、独立しようとして」

「不義理働いたやつもおる」

「せやから」「原価も、仕入れ先との付き合いも」

「簡単に真似できんようにしてる」

「弁当売りの子らとも」「時々会議して」

「噂話、聞いて」「次の種、探す」

「双六も」「各店一人ずつ」「続けるつもりや」

「楽しくないと」「続かんからな」

言い終わった広雪の顔を、タカはじっと見ていた。

そして、不意に身を乗り出して、軽く、口づけをする。

博之は目を丸くする。「……え」お高は笑った。

「それ聞いたら」「頑張れそうやな、って」

博之も、つられて笑う。

「……せやな」「頑張れそうや」

二人で笑い合う。帳面は棚に戻された。

けれど、その数字の重みと、それ以上に重い覚悟は、

二人の間に、しっかりと残っていた。

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