博之がお高との結婚と七軒目、8軒目同時立ち上げの話とお願いをする。
博之とお高は、仕事終わりの時間を見計らって、六軒分の店から人を集めた。
板場、給仕、弁当売り、古参も新参も関係なく、顔が揃う。
博之は、いつものように一歩前に出て、少しだけ背筋を伸ばした。
「今日はな、店の話と、私事の話を一緒にさせてもらう」
ざわっとした空気が走る。
「今は六軒目や」「最終的には、九軒まで出して」
「そのあとに、居酒屋を一軒やる」
これは、皆が知っている話やった。「でな」
「その居酒屋の開店の時に」一拍置く。「お高と、結婚したことを」
「正式にお披露目しようと思ってる」
一瞬、静まり返ってから、どっと笑いと拍手が起こる。
「おおーっ」「やっぱりか!」博之は苦笑いしながら続けた。
「その時に」「三井の縁の者になる、という話も」
「正式に発表する」「せやけど」
「それまでは、あんまり言いふらさんといてほしい」
皆が頷く。博之は少し照れながら、話を切り替えた。
「それとや」「お高からな」
「あんまり待たされるの嫌や、言われて」
場がどっと笑う。「せやから」
「次は七軒目と八軒目」「二店舗、同時に出す」
今度は、どよめきが走った。
「正直言うて」「人をまた増やさなあかん」
「育てる時間もいる」「皆には、負担かける」
「それは間違いない」そう言って、頭を下げる。
「せやけど」「それだけ人を入れるいうことは」
「新しい店に行くやつも増える」「古参も」
「料理人から一人」「給仕から一人」
「新たに増やすことになる」
「大変やと思う」「でも、その分」
「店が回ったら、ちゃんと還元する」
「こっちも、できることは全部やる」
「せやから」「一緒に、頑張ってほしい」
しばらくして、誰かが声を上げた。
「いやいや旦那」「ええとこの奥さん迎えてくれはったんは」
「こっちにとっても、めちゃ嬉しい話ですわ」
「器量良しで」「現場わかる奥さんやったら」
「腰も座るし、安心です」
別の者も続く。「店増えたら」
「仲間も増えるし」「役職上がるやつも出てくる」
「願ったりです」空気は、自然と前向きになっていた。
お高は、少し申し訳なさそうに口を挟む。
「私のせいで」「店、早う増やさなあかんみたいになって」
「それって、どうなんですかね」
博之は、すぐに首を振った。
「言い方は、そう聞こえるかもしれんけどな」
「やりたいことが」「早うできるようになっただけや」
「半分は、確かにそう」「でもな」
少し間を置いて、照れたように言う。
「半分は」「感謝してる」
場がざわつく。「おいおい」「のろけか」
「さすが新婚さんやな」博之は頭をかきながら笑った。
「まだやけどな」お高も苦笑しながら言う。
「ほんまに」「私のせい、半分くらいですから」
笑いが起きる。その場にいた誰もが、
これから忙しくなることはわかっていた。
でも同時に、道がはっきり見え始めた気もしていた。
店も。人も。そして、二人の関係も。
同じ方向を向いて、前へ進む。
そんな空気が、確かにそこにあった。




