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一晩同じ布団で過ごした日

夜も更けて、店の奥はすっかり静まり返っていた。

炭の匂いも薄れ、帳場の灯りだけが、ほの暗く残っている。

お高が、ふと冗談めかして言う。

「今日は、素直に“好き”って言うてくれましたし」

「……お布団、入ってきますか?」

その一言で、博之の思考は止まった。耳まで一気に熱くなる。

「……え?」見れば、お鷹は少し照れた顔で、けれど逃げない。

博之は一瞬、間を置いてから、小さくうなずいた。

「……うん」それだけで十分やった。

二人は言葉少なに奥へ入り、

布団の中で、初めて同じ夜を過ごすことになる。

派手なことは何もない。ただ、体温があって、呼吸があって、

隣に誰かがおるという事実だけが、やけに重く、心地よかった。

翌朝、まだ外が白みきる前に、博之は目を覚ました。

隣で眠るお鷹の寝息が、規則正しく聞こえる。

しばらく、そのまま天井を見ていたが、

胸の奥に溜まったものが、どうしても引っかかって離れへん。

そっと声を落とす。「……なあ、タカ」お鷹はゆっくり目を開ける。

「はい?」博之は一瞬、言葉を探すように口をつぐんだあと、

観念したように、正直に吐き出した。「俺な」

「正直、顔で好かれるとは思ってへん」自嘲気味に笑う。

「ブサイクやし、若くもないし」

「今まで、女の人に選ばれてきた覚えもあらへん」

少し間を置いて、続ける。「でも」

「こうやって一晩、一緒におってくれて」

声が、少しだけ震える。

「……ますます好きになってしもた」

布団の中で、視線を逸らしたまま言う。

「要はな」「俺、愛されたいんやと思う」

そして、照れ隠しみたいに、半ば強引に言う。

「俺は好きって言うた」「やから、お前も好きって言え」

一瞬の沈黙。次の瞬間、お鷹が小さく吹き出した。

「……もう」頬を赤くしながら、呆れたように言う。

「好きじゃなかったら」「自分から、あんな誘い方しませんよ」

そう言って、少し視線を伏せる。

「そんなに“好き”って言ってほしいんやったら」

「私からも、ちょっとずつ言うていきます」

「急には無理ですけど」

「ちゃんと、伝える努力はしますんで」

そして、照れくさそうに微笑む。

「……よろしくお願いします」

その言葉を聞いた瞬間、

博之は布団を抜け出し、きちんと正座した。

そして、深く頭を下げる。「こちらこそ」

「どうぞ、よろしくお願いします」

お鷹は目を丸くしてから、また笑う。

「それ、布団の中で言う話ちゃいます?」

「……せやな」そう言いながらも、博之の顔は晴れていた。

誰かに選ばれたというより、誰かと“選び合えた”朝。

その感覚が、これまで積み上げてきたどんな商いよりも、

胸に残っていた。

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