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博之がお高と一緒になると決め店の者に宣言する

一ヶ月が、静かに過ぎた。

その日は、店を少し早めに閉めた。六軒分の者が、奥の広間に集まる。

給仕、料理人、下働き、弁当売り。顔ぶれは増えたが、空気は落ち着いている。

博之が声をかける。

「今日はな、ちょっと話がある」

ざわつきはない。皆、なんとなく察している。

その横に、お高が座る。博之の隣。

不自然な近さではない。この一ヶ月、見慣れた距離や。

博之は一度、皆を見回す。

「この一ヶ月、こいつは朝は三井、昼からここで働いて、夜は一緒に暮らしてた」

「試しや。うまくいかんかったら、それまでにしよう思ってた」

誰かが、息を呑む音がする。「結果から言うとやな」

「俺は、嫌やなと思うことはなかった」

それだけを、淡々と言う。お高が、少し頭を下げる。

「皆さん、急に入ってすみませんでした」

「でも、ここで働くのは、正直、気持ちよかったです」

給仕の子が、思わず笑う。「わかります、それ」

その一言で、空気が緩む。博之が続ける。

「今日からは、試しやない」「この人は、俺の横におる人や」

「店のことも、暮らしのことも、一緒に考える」

誰も拍手はせえへん。でも、誰も反対せえへん。

のぶが、ぽつりと言う。「そらそうやと思ってました」

さきちゃんも、頷く。「一ヶ月見てて、違和感なかったです」

博之は、少し照れたように笑う。

「せやからな」「これからも、今まで通りや」

「急に何か変えるつもりはない」

お高が言葉を添える。

「奥に引っ込むつもりもありません」

「できることは、現場でやります」

その言い方が、いかにもお高らしい。

下働きの一人が、思い切って言う。

「……よかったです」理由は言わない。

でも、その一言で十分やった。

博之は、少しだけ声を低くする。

「この店は、誰か一人のもんやない」

「せやから、これからも、言いたいことは言え」

それは、宣言でも命令でもない。今まで通りの約束や。

集まりは、あっさり終わる。誰も長居はせえへん。

それでも、立ち上がる背中は、どこか軽い。

奥に残ったのは、博之とお高だけ。

「……これで、よかったですか」お鷹が聞く。

「上等や」「一番、俺ららしい」

そう言って、二人は湯を沸かしに立つ。

特別な祝いはない。でも、店の芯が一つ、定まった夜やった。

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