その後の博之とお高の関係性
ある日、博之とお高が向かい合って座ると、案の定、話はまた仕事に寄っていく。
仕入れの段取り、店の回し方、人の育て方。それを横で聞いていたユキは、
ため息まじりに肩をすくめた。「……あんたら、ほんま仕事の話ばっかりやな」
お高も、くすっと笑って頷く。「私も人のこと言えませんけど。
でも、ここまでやと、ちょっと呆れますね」博之は苦笑いする。
「いや、話しやすうて……つい」「“つい”が多すぎるんや」
ユキは即座に突っ込んだ。「二人とも、遊びが足らん。
頭ばっかり使うて、体と心が追いついてへん」
お高は、少し考えてから言った。「確かに……私、
一人で遊びに行くこと、ほとんどなかったです」
「やろ?」ユキは手を叩く。
「せやからな、布団の中でごそごそするんは——
まあ、その後でもええ」博之が思わず咳き込む。
「ちょ、言い方!」「冗談や冗談」ユキはにやっと笑う。
「せやけど、とりあえず“一緒に遊ぶ”とこから始めたらどうや」
「歌舞伎とか、どうせ行ったことないやろ。
松阪以外で大きい町言うたら、行き来するばっかりで」
「有馬に湯治で行くなんて、夫婦でもしたことないはずや」
博之は、言われてみればと頷いた。「……確かに、ないですね」
「せやろ」ユキは続ける。
「一緒に出かけて、笑って、失敗して、そうやって思い出作りながら、
夫婦の形を作るんや」
「布団で一夜共にしてから考えてもええ。せやけどな、
先に“二人の時間”を持つ方が、よっぽど大事やと思うで」
博之は腕を組んで考え込む。「……真面目にやりすぎ、ですかね」
「せや」ユキは即答した。「企画はよう考えてる。
でも、人生まで段取り通りにいかんでええ」
お高は、少し照れたように言った。
「私も……一人でどこかに遊びに行くこと、
あんまりなかったので」
「こうやって話が合う博之さんと、
一緒に何かできるのは、正直、楽しみです」
二人の視線がふっと合い、どちらともなく目を逸らす。
その様子を見て、ユキは呆れたように笑った。
「……なあ。今まで、あんなに周りくどかったん、誰やったん?」
「急に素直になって、逆にこっちが気ぃ抜けるわ」
博之は照れ笑いしながら言った。
「じゃあ……まずは歌舞伎、ですかね」「有馬も、ええですね」
お高が続ける。「ほら、もう決まっとる」
ユキは満足そうに頷いた。
「仕事は仕事。遊びは遊び。その区切り、二人で覚えていき」
夕暮れの気配の中で、二人は少しだけ肩の力を抜いた。
これまでになかった“始め方”を、ようやく思いついた気がしていた。




