縁談継続と身内の方を挨拶がてら店に招待すると思わぬ人物が来た
「……ほな、続けて会うてみよか」
博之がそう言うたのは、
花見から半月ほど経った夕方やった。店は一段落していて、
奥でユキと二人、湯呑みを前にだらだら話している。
「お、ええやん」ユキは、拍子抜けするほどあっさり喜んだ。
「もっとグズるか思たわ」「いや……」博之は苦笑いする。
「嫌や、って気持ちはないですし」
「ほな、それで十分や」ユキは即答やった。
「縁談なんてな、最初から好き好き言うてたら逆に怪しい」
そう言ってから、少し真面目な顔になる。
「でや」「話進めるんやったら、身内に挨拶くらいはせなあかんやろ」
「向こうも、ちゃんとした家や」博之は頷く。
「……それは、そうですね」「今度な」ユキは湯呑みを置く。
「向こうの家族でも、店に案内したらどうや」
「飯食わせて、空気見てもろたらええ」
博之は少し考えてから言った。
「……ほな、その話、伝えてもらえますか」
「任しとき」数日後。店に入ってきたのは、お高と、
見覚えのある年配の男やった。背筋が伸び、
物腰が静かで、目だけが鋭い。博之は、
一瞬で思い出した。(……あ)ユキが、
少し楽しそうに言う。「紹介しとこか」
「三井本家の大旦那や」
博之の頭の中で、点と点が一気につながる。
——昔、ユキに連れられて初めて挨拶に行ったあの時。
奥でじっと様子を見ていた、あの大旦那。向こうも、
博之の顔を見て、ふっと笑った。「……ああ」「君か」
博之は、思わず背筋を伸ばした。
「その節は」大旦那は、店の中を一通り見渡してから言う。
「ええ店になったな」横でユキが、
ニヤニヤしている。(……そう来たか)
博之は、心の中でそう思いながらも、不思議と落ち着いていた。
縁談は、思っていたより、ずっと遠くから
見られていたらしい。そして、逃げ道は、また一つ、
静かに消えていった。




