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好きより嫌いではないことの方が大事だ

しばらく桜を見上げていたユキが、

 ふっと息を吐いて言うた。

「まあな。好きかどうかは、置いといてええ」

 博之は、きょとんとする。

「大事なんは、嫌いかどうかや」

 その言い方が、やけに現実的で、

 周りの空気が少し引き締まった。

「どうしても布団に入るのが嫌や、

 触れられるんも無理や、

 それやったら話は終わりや」

「せやけど、そうやないなら」

 ユキは、博之をじっと見る。

「続けて会う価値は、十分ある」

 のぶが小さく頷き、さきちゃんも真顔になる。

「縁談なんか、これからも来るやろ」

「せやけどな」ユキは言葉を切った。

「引け目感じずに、一緒におれる相手は、

 そうそうおらんで」その一言が、

 博之の胸に、ずしっと落ちた。

「お前、もう金もあるし、仕事も回してる」

「せやから、縁談だけはな」

「ひねくれ、加速すんの分かっとる」

 博之は苦笑いした。「……否定できません」

「せやろ」ユキは、容赦なく続ける。

「せやから、遠くないうちに」

「ありか、なしかくらいは、決めなさい」

 その時や。お高が、少し間を置いて、

 静かに口を開いた。「ちなみに、ですけど」

 全員の視線が、お高に集まる。「……私は」ほんの一瞬、

 言葉を選んでから、はっきりと言った。

「お布団には、入れますよ」

 場が、一瞬で静まり返る。

 次の瞬間、さきちゃんが噴き出し、

 のぶは咳き込み、ユキは「出た」と小さく笑った。

 博之は、完全に固まっていた。

「顔が特別好みか、って言われたら」

 お高は、悪びれもせず続ける。

「正直、分かりません」「でも」

 視線を博之に向ける。「仕事ぶりは、好きです」

「店の空気も、好きです」

「周りの人が、ちゃんと幸せそうにしてる」

「それが、一番信用できます」

 博之は、何も言えへん。ユキが、

 満足そうに腕を組んだ。

「ほらな」「外堀、埋まってきたやろ」

 桜の花びらが、また一枚、地面に落ちる。 博之は、

 その花びらを見つめながら思った。

(……逃げ道、減ってきたな)

 でも、不思議と、嫌な気はせえへん。

 むしろ、胸の奥が、少しだけ軽くなっていた。

 縁談は、いつの間にか、“選ばされるもの”やなく、

 “向き合うもの”に変わり始めていた

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