ユキが博之に意地悪な質問をする
桜の下で、一通り話が落ち着いたところで、
ユキが急に箸を置いた。「……でや」
その声のトーンで、博之は嫌な予感がした。
「博之」「はい」「お前、面食いなんは、
わしよう知ってるで」
その場の空気が、ぴたりと止まる。
「え?」さきちゃんが目を丸くする。
「そうなんですか?」のぶも興味津々や。
お高は、少しだけ眉を上げたが、
黙って様子を見ている。
「いや、それは……」博之は目を逸らした。
ユキは容赦せえへん。
「ちゃう言い方したろか」
「ほんまはそれだけちゃうやろ」
「若い方がええとか、色々あるやろ」
博之は、完全に逃げ場を失った顔になる。
「……」「年頃にやな」ユキは続ける。
「同年代の女に相手にされへんかったら、
普通ひねくれるで」
「お前、ひねくれへんかったんは偉いけど」
「その分、変なとこで拗らせてるやろ」図星やった。
博之は、桜を見上げて、しばらく黙ったあと、
ぽつりと口を開いた。「……正直言うとですね」
声が少し小さくなる。「若い頃、
全然あきませんでした」
「金もないし、顔も良くないし」
「仕事の話しても、途中で飽きられて」
のぶとさきちゃんは、何も言わずに聞いている。
「せやから、同年代の女の人と話すと」
「どこかで、身構えてしまうんです」
ユキは、黙って頷いた。
「若い子の方がええ、っていうより」
「相手にされへん怖さが、先に来る」
そこで、博之は苦笑いした。「せやけど……」
「娘くらいの年やと、今度は別の意味で困るんです」
「話すことが、仕事以外、思いつかへん」
「向こうも気ぃ使うし、間がもたへん」
その言葉に、お高がふっと笑った。
「……それは、確かにしんどいですね」
博之は、少し恥ずかしそうに頷く。
「せやから、余計に分からんようになるんです」
「自分が、何を求めてるのか」
ユキは、そこでようやく口調を和らげた。
「まあな」「せやから言うてるやろ」
「お前は、“話が通じる相手”が一番や」
のぶが、ぽつりと言う。
「仕事以外の話が、できるかどうか、ですね」
「仕事の話も、楽しめるかどうかですね」
さきちゃんが付け足す。お高は、少し考えてから言った。
「……私は」「若いとか、格好いいとかより」
「話してて、自分が縮こまらへん相手がええです」
その言葉に、博之は一瞬、言葉を失った。
ユキは、その様子を見て、小さく笑った。
「ほらな」「拗らせてる言うても、腐ってはない」
「それでええねん」桜の花びらが、また一枚、
博之の膝元に落ちた。
面食いで、不器用で、少し臆病。
それでも、正直に話せる場所が、今ここにあった。
博之は、そのことにだけ、そっと救われていた。




