お花見しながら話に花が咲く
弁当をつつきながら、
博之とお高は、相変わらず仕事の話をしていた。
「六軒目は、人の動線がなかなか難しゅうて」
「でも、あの場所なら夕方の流れはええと思います」
「仕込みの段取りが増える分、古参を一人ずつ
立てたのは正解やと思います」「現場が自走し始めてますもん」
それを聞いていたユキが、ため息混じりに言う。
「……ほんま、ようそれで話続くな」
のぶも苦笑いする。「普通、
もうちょっと色のある話になりますよね」
「仕事の話で花見終わる縁談、初めて見ましたわ」
さきちゃんは、くすっと笑ってから、
場の空気を変えるようにお高へ向き直った。
「お高さん、大阪は長いんですか?」
「ええ、行ったり来たりですけど」
「ほな、おすすめとかあります?」
その一言で、空気がふっと緩む。
「そうですね……天満の辺りは好きです」
「人の流れがあって、商いの匂いがする」
「分かります!」さきちゃんが身を乗り出す。
「私も、あの辺歩くの好きです」
博之は、少し遅れて口を挟んだ。
「松阪やと、もっと静かでしたけどね」
「伊勢は、逆に人が多い時と少ない時の差が激しくて」
「へえ」お高が興味深そうに聞く。
「伊勢って、観光のイメージしかなかったです」
「住むと、また違いますわ」「地元の人は、淡々としてる」
そんな話をしているうちに、自然と笑い声が増えていく。
やがて、のぶがぽつりと言った。
「……そういえば」「好きな食べ物、とかは?」
場が一瞬、静かになる。博之が先に答えた。
「豚汁ですね」即答すぎて、全員が笑う。
「それ以外で!」ユキが突っ込む。
「……煮魚ですかね」「派手じゃないやつ」
お高は少し考えてから言った。
「私は、出汁がきいてるものが好きです」
「薄味でも、芯があるやつ」
「分かる気します」博之が頷く。
次に、さきちゃんが悪戯っぽく聞いた。
「ほな……好きなタイプは?」
博之は、完全に不意を突かれた顔をした。
「……急やなおい」「花見ですから」さきちゃんは笑う。
お高は、先に答えた。「仕事の話ができる人」
「あと、人を見下さへん人」
博之は、少し考えてから言った。
「……話を、ちゃんと聞いてくれる人」「それだけ?」
「それだけで、だいぶ難しいです」
その言葉に、お高は静かに笑った。
周りを見ると、ユキは腕を組んで首を振り、
のぶは遠い目をし、さきちゃんはどこか嬉しそうや。
「まあ」ユキが言う。「この二人、歩みは遅いけど」
「腐らへんやろな」
桜の花びらが、ひらりと落ちる。
仕事の話から始まった花見は、いつの間にか、
ちゃんと“人の話”になっていた。




