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お花見のお誘い。博之とお高、加えて身近なメンツで行くことがきまる。

「……花見でも、行きます?」お高が、湯飲みを置きながら言った。

 博之は一瞬、きょとんとする。「花見、ですか」

「ええ。仕事の話ばっかりやと、また座敷で帳面開きそうやし」

 それを聞いて、博之は笑った。「確かに。それは、やりかねません」

 そう言いながらも、内心は少し浮き立っていた。

 仕事以外の約束を、自分から口にすること自体が久しぶりや。

「ほな、静かなとこで――」

「花見やな?」障子の向こうから、声が飛んできた。

 二人同時に振り向く。そこには、腕組みしたユキが立っていた。

「……聞いてました?」「丸聞こえや」ユキはにやっと笑う。

「二人で花見は、ちょっと人数少なすぎて寂しいやろ」

「せやから、わしも行く」博之は思わず苦笑いする。

「いや、ユキさん……」「なに。縁つないだ責任者やで?」

 お高は、その様子を見て吹き出した。

「はは、賑やかな花見になりそうですね」ユキはその笑顔をじっと見て、

 小さく頷いた。「……ほな」その場で決まった。

「のぶも呼ぼか」「さきちゃんもおった方がええな」

 ユキが言うと、博之も頷く。「二人とも、

 こういう場の空気、和らげるの上手いですし」

 数刻後。のぶは話を聞くなり、眉を上げた。「花見ですか。

 それは……見る側として、参加必須ですね」「なにをや」

「未来の奥さん候補ですやん」博之は一気に赤くなる。

「ちょ、そういう言い方は……」一方、さきちゃんは少し考えてから、

 にこっと笑った。「ええですね。お花見」

「普段、仕事してる姿しか見てへん人を、外で見るの、大事ですし」

 その一言に、ユキが「せやろ」と満足そうに頷く。気がつけば、

 誰も反対してへん。むしろ、話はどんどん弾んでいく。場所はどこにするか。

 弁当はどうするか。酒は控えめか、しっかり飲むか。

 その輪の中心で、博之は妙に落ち着かへん気持ちになっていた。

(……なんやこれ)店の立ち上げの時とも、人を雇う時とも違う。

 でも、確かに胸が少し高鳴っている。未来の奥さん候補を、

 仲間に見せる日。きっかけを作ったユキは、どこか楽しそうやし。

 のぶは冷静な目で見極める気満々。

 さきちゃんは、優しく空気を包むやろ。

 そして、自分。(……仕事以外で、こんなにワクワクするの、

 いつ以来や)博之は、春の匂いを想像しながら、

 少しだけ深呼吸した。花が咲く頃、また一つ、

 人生の景色が広がるかもしれへんな――

 そんな予感だけが、胸に残っていた。

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