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縁談の女性側 お高こと高子とユキの反省会

夕方の店を一通り見て回ったあと、ユキとタカコは奥の座敷で向かい合っていた。

湯飲みから立つ湯気が、昼間の忙しさを少しずつほどいていく。

「で、正直なところやけどさ」ユキがにやりと笑って切り出す。

「博之との縁談、どうなんや。気ぃ遣って言わんでええで」

 タカコは一拍置いてから、ゆっくりと口を開いた。

「顔、って意味やったらね」そう前置きして、少し困ったように笑う。

「好きか嫌いかって聞かれたら……正直、まだよう分からんかな。

 別に男前やとも思わへんし」

ユキが吹き出しそうになるのを、手で制する。

「せやけどな、話がとにかくおもろい」

そこから言葉が少しずつ弾みだす。

「仕事の話ばっかりやのに、聞いてて全然飽きへんのよ。

 私、現場で動いてきたやろ?せやから大概の話は“分かるつもり”で聞いてまうんやけど」

 湯飲みを指で回しながら続ける。

「博之さんの話は、ああ、そんな見方もあるんや、

 そこまで考えてるんや、って思わされることが多い。

 現場で動いてきた人間やないと出てこない発想もあるし、

 逆に、現場にどっぷり浸かってないからこそ見えるもんもある」

 ユキは黙って頷いている。「あとね」

 タカコは少し声を落とした。

「下の者に対して、ほんまに丁寧やと思う。

 怒鳴らへんし、“使う”っていう感覚があんまりない」

 そして、思い出したように笑う。

「自分、結婚してへんのに、下の女の子らに花嫁修行の日

作ってる言うてたやろ?あれ、正直めちゃくちゃおかしかった」

 思い出し笑いを堪えきれず、肩が揺れる。

「普通、逆やろって思うやん。せやけど、

 “人を大事にする人なんやな”って、

 あの一言で全部伝わった気がした」

 ユキが苦笑いする。

「お前、ようそんなとこ見てるな」「見てまうよ」

 タカコは即答した。「私、前の家でな、

 下の子に手ぇ出す男見てきたし。職場が

どんだけギクシャクするか、身に染みてる」

少し間を置いてから、冗談めかして続ける。

「せやから遊郭の話も、ちょっと悪ふざけで

聞いてみたんよ。どうせ誤魔化すやろって」

「そしたら?」「意外とまともな答え返ってきてな」

タカコは肩をすくめる。「昔は行ってた、でも今は寂しい、

 自分の話をちゃんと聞いてほしい、って。

 下の子に手ぇ出されるより、私としてはそっちの方がずっと飲み込める」

さらりと言い切る。「一回離婚もしてるしね。

 男がそういうもん好きやってことも、嫌いうほど知ってる」

 ユキは少し真顔になる。「ほな、前向きなんか」

 タカコは、少し考えてから答えた。

「今度、ご飯食べに行くやろ。正直、それ次第かな」

 窓の外の店の灯りを見る。

「料理も、空気も、全部あの人が作ってきたもんや。

 一回ちゃんと味わってみたい。それでしんどかったら、それまでやし」

 ふっと口元を緩める。「それにさ、もし浮気するんやったら……」

 わざとユキを見る。「ユキさんがしばいてくれはるんでしょ?」

「おい」ユキが呆れたように笑う。

「話早いな」「冗談やって」タカコも笑い返す。

 ユキは湯飲みを置いて、ぽつりと言う。

「正直な話な。お前が博之と一緒になってくれたら、

 俺はあいつにめっちゃ会いやすくなる」

「それが本音?」「半分はな」

 ユキは肩をすくめる。「もう半分は、

 あいつ、金目当ての女に囲まれるより、

 お前みたいなんと喋ってる方が性に合うと思うわ」

 タカコは少しだけ照れたように視線を逸らす。

「まあ……喋り相手としては、確かに楽しい人やな」

 そう言って、湯飲みを持ち上げる。

「縁談としてどうなるかは分からんけど、

 もう一回会う価値は、十分あると思う」

ユキは深く頷いた。「ほな、次は飯やな」

「せやね」障子の向こうから、店のざわめきが聞こえる。

その音を聞きながら、タカコは心の中で思った。

――少なくとも、この人となら、仕事の話をしながら

夜が更けても、苦にはならへんかもしれへんな、と。

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