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ユキと縁談の反省会

座敷を出て、少し歩いたところで、ユキはついに吹き出した。

「……あかん、あれはあかんわ」

博之は、何が可笑しいのか分からん顔で歩いている。

「何がです」「全部や」

ユキは腹を抱える。「仕事の話ばっかりやし、

 縁談や言うてんのに、ご縁の日だの手習いの日だの、

 花嫁修行まで出てくるとは思わんかった」

「大事な話ですから」「そら大事やけどな」

ユキは、思い出したように首を振る。

「それよりな……遊郭の話」

博之は、少しだけ視線を逸らす。「ああ」

「正直に答えたやろ」「聞かれたから」「そこや」

ユキは苦笑いする。「普通は、濁すか、

 軽く笑って流すとこや」

「嘘つくんは、違う思いまして」

「せやけどな」ユキは、半分呆れたように言う。

「脈ない思われてもおかしないで」博之は、少し考える。

「……そうですかね」「そやろ」ユキは言い切る。

「遊郭の話まで振られて、正直に『寂しなった』やで」

「事実ですし」「そこが、お前らしいんやけどな」

ユキは、ふっと表情を変える。

「せやけど、よくそこから『また会いましょう』になったな」

博之は、思い返す。

確かに、縁談としては、だいぶ変やった。

色気もなければ、甘い言葉もない。

「……相手が、離婚してるからやないですか」ユキは、頷く。

「それはある」「一回、結婚いうもんを経験して、壊れた人や」

「せやから、建前の会話より、腹の中が見える方がええ」

博之は、少しだけ安心する。

「なんでも喋れる相手、意外と少ないで」

ユキは続ける。「しかもな」立ち止まって、博之を見る。

「お前、知り合った頃に比べたら、だいぶ金持ちになった」

「……そうですか」「せやけどな」ユキは笑う。「相手の実家は、

 三井や」「看板の重さが違う」博之は、黙る。

「せやから、お前の金を目当てに寄ってくる女やない」

「金は、実家にある」「それが、ええ」

ユキは、はっきり言う。「釣り合いは、取れてる」

博之は、その言葉を噛みしめる。

「仕事の話が通じる」「現場を知ってる」「変に媚びへん」

条件としては、これ以上ない。

「恋やの、情熱やの、そういうんちゃう」

ユキは、肩をすくめる。「喋ってて楽しいかどうかや」

「そこから始まるもんも、ある」

博之は、歩きながら考える。確かに、今日は楽やった。

気を張らんでええ。構えんでええ。

「ほな」ユキは、最後に言う。

「次は、フラットに飯でも食べて」

「店の話も、仕事の話も、どうでもええ」

「仲良しになれるかどうか、それだけ見てみたらええ」

博之は、少し照れたように言う。

「……考えてみます」ユキは笑った。

「考える時点で、前より進んどるわ」

夜風が、少し冷たい。縁談かどうかは、

まだ分からない。せやけど、次に会う理由は、

ちゃんと残っている。それで十分や。

ユキは、そう思いながら、博之の背中を見送った。

この男は、相変わらず不器用や。

せやけど、その不器用さを、面白がれる女やったら――

案外、うまくいくんかもしれん。

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