博之に縁談の話。ユキの紹介で三井の遠縁と接触
その話は、唐突やった。「なあ博之」
ヒロが、酒を一口含んでから言う。
「一回、会うてみいひんか」
博之は、箸を止める。「縁談か」
「縁談やなあ。堅い言い方したら」
そう言うて、ヒロはにやりと笑う。
「三井の遠縁や。離婚してる。
実家は太いけど、現場に出てる」
その時点で、博之は半分身構える。
三井。実家金持ち。遠縁。
どれも、自分から距離を取りたくなる言葉や。
「若いんやろ」「三十くらい」
博之は、無言で酒を飲む。
ヒロは、その様子を見て、さらに畳みかける。
「安心せえ」「派手ちゃう」「お前が嫌いなタイプやない」
「……」「それにやな」ヒロは、声を落として続ける。
「お前のこと、知ってるで」「何をや」
「不細工なくせに、面食いやいうこと」
博之は、思わずむせる。「余計なお世話や」
「せやけど本人も知っとる」ヒロは笑う。
「せやから、最初から期待してへん」
その言葉に、博之は少しだけ肩の力を抜く。
面食い。自覚はある。せやけど、手を出さへん。
給仕も、弁当売りも、近くにおる女の子ほど、距離を守る。
気まずくなるのが嫌やから。店が壊れるのが嫌やから。
それを、周りはちゃんと見ている。
「女の子、よう雇うのに、一切手出さんのがええ言うてたで」
ヒロが言う。「変な期待させへんし、線を越えへんのが信用
できる、って」博之は、苦笑いする。「そんなん、当たり前やろ」
「当たり前ちゃうねん」「それができん男、山ほどおる」
しばらく沈黙が落ちる。
「で、その人は」博之が、ようやく聞く。
「働く女や」「姑に嫌われて、亭主に浮気されて、
それでも現場に残った」
博之は、その情景を思い浮かべる。
泣き叫ぶでもなく、恨み言を言うでもなく、
黙って立つ女。「会うだけでええ」
ヒロは、軽く言う。
「気に入らんかったら、それで終いや」
博之は、しばらく考えてから、頷いた。
「……ほな、一回だけや」
ヒロは満足そうに笑う。
「それでええ」
博之は、盃を置きながら思う。
不細工で、面食いで、女に警戒して、
それでも線を引く。
そんな自分に、合う相手がいるとしたら――
多分、同じように、一度人生で転んだ女や。
会う前から、期待はしてへん。
でも、少しだけ、話してみたいと思っている。




