縁談の席を設けるも苦労する。が一つ縁ができる
縁談の席を設ける、というのは思っていた以上に骨が折れた。
一度会えば話が決まる、そんな簡単なもんやない。
顔を合わせ、言葉を交わし、日を改め、また話す。
その間に、相手の素が少しずつ見えてくる。
最初に来たのは、商人の次男坊やった。家は悪くない。
金回りもええ。身なりも整っている。
せやけど、話をしているうちに、給仕の女の子の顔が固くなる。
「今は働いてはりますけど、結婚したら家に入ってもろたらええですし」
その言い方が、どこか軽い。
「給金がええのは、それだけ主人が甘いいうことやろ?」
その一言で、場の空気が決まった。この話は、それきりやった。
次に来たのは、年の近い若者。愛想はええ。話も弾む。
せやけど、どこか浮ついている。
「博之の店で働いてるんやろ?ほな、結婚したら、
毎日あの料理が家で食えるんやな」
冗談めかして言うたつもりやったんやろうが、
その場にいた誰も笑わへんかった。
「今は、料理も修行中です」
給仕の女の子がそう答えると、相手の表情が一瞬、曇った。
「……あ、そうなんですか」
それ以上、話は進まなかった。
何度か、そんな日が続いた。
博之は、改めて思う。縁談は、会えば終いではない。
働き方も、考え方も、生活の延長線にある話や。
その頃、ひとつの話が静かにまとまり始めた。
相手は、三井の小間使いやった。年は少し上。
派手さはないが、落ち着いている。
最初から、店の話をよく知っていた。
「あそこの店で働いとる人は、皆、立ち居振る舞いが
ええって聞いてます」「無理な商いせん主人や、とも」
その言葉に、博之は何も言わへん。ただ、様子を見る。
小間使いの男は続けた。「働くのは苦やないです」
「家のことも、一緒に回していけたら思てます」
給仕の女の子は、これまでより少しだけ、肩の力を抜いて話していた。
料理の話も出た。修行中やという話も、最初から織り込み済みやった。
「覚えていくもんやと思てます」「急ぐ話やないですし」
その言葉で、場が落ち着いた。何度か会い、話を重ね、
ようやく、ひとつの縁がまとまった。
博之は、最後まで口出しはせえへんかった。
ただ、見送るときに一言だけ言う。
「ここで働いた時間が、役に立つなら、それでええ」
女の子は、深く頭を下げた。
縁談は、数やない。合うかどうかや。
それを、皆が身をもって知った冬やった。




