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年末。ご褒美のすごろく企画を考える

五軒目が回り出して、ひと息ついた頃やった。

鍋の数も、人の動きも、まだ手触りは残っている。

せやけど、あきらかに一段、景色が変わってきている。

年の瀬も近い。博之は帳場に座りながら、ぼんやりと考えていた。

「このまま正月迎えるだけやと、なんか足りんな」

売上は悪くない。人も揃ってきた。

けど、順調な時ほど油断が出るのも、博之はよう知っていた。

そこで思いついたのが、双六やった。

遊びやけど、ただの遊びやない。

一つは、人が抜けた時に店が回るかを見るため。

誰かが半日、一泊、二泊と抜けた時、

残った者で穴を埋められるかどうか。

もし無理なら、それは人が足りてへん証拠や。

もう一つは、人を増やす判断材料。

穴が見えたら、次の手を打つ。

それだけのことや。そしてもう一つ。

これが博之にとっては、案外大きかった。

「土産話や」遊びに行った者が、

見たもん、食うたもん、感じたことを持って帰ってくる。

それを茶飲み話や酒の席で話す。それだけで、店の中に新しい風が入る。

仕事の話ばかりでは、人は痩せる。

双六の中身は、博之なりに考えた。出目は六つ。

三つは小旅行や。一つは、近場の社寺参り。

住吉や四天王寺、ちょっとしたお参りや。

一つは、有馬。一泊して、湯につかってこい。

一つは、京都か灘。町の空気を見るだけでええ。

残り三つ。

一つは、芝居か見せ物。五軒目やし、

まずは見せ物でええやろ、と博之は思った。

一つは、高い飯。鰻でもええし、老舗の蕎麦屋でもええ。

天ぷらでもかまへん。「うまいもん食うてこい」やない。

「勉強してこい」や。

最後の一つは、五百文。これはもう、外れや。

小遣い渡して終わり。それもまた双六や。

やり方も決めてある。

五軒あるから、一軒につき一人。

位の上の者から順に振る。一度に全員は動かさへん。

日がかぶらんように、日をずらす。

穴が開くなら、それはわざと開ける穴や。

博之は、この話をのぶとさきにした。

「面白いですね」のぶは即座に言うた。

さきも、目を輝かせる。

「帰ってきた人の話、みんな聞きたがりますよ」

それを聞いて、博之は少し安心した。

年末、皆が揃った夜。博之は改めて、この話をした。

双六の板を出したわけでもない。ただ、口で説明しただけや。

それでも、場の空気が一気に変わった。

「京都出たらええな」「有馬、誰が行くんや」

「高い飯って、どこやろ」声が重なり、笑いが起きる。

博之は、浮かれへんように一言添えた。

「遊びやけどな、店止める遊びはせえへん」

「抜けた穴、ちゃんと埋めてからや」

それでも、皆の顔は明るかった。

年末に向けて、店の中に新しい火が灯ったようやった。

博之はその様子を見ながら、心の中で頷いた。

――これでええ。仕事と遊びの間に、ちゃんと道を作ってやる。

それが、ここまで積み上げてきた店の、次の一歩やった。

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