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五軒目の立ち上がりが順調。古参衆任命が功を奏す

古参を立ててから、店の空気ははっきり変わった。

五軒目は、思っていたよりも静かに立ち上がった。大騒ぎも、混乱もない。

鍋の前に立つ者が迷わず動き、給仕が声を荒げずに回す。

「回ってるな」博之は、少し離れたところからそれを見ていた。

古参が一人立つだけで、現場はこうも変わる。指示が減り、迷いが減り、

判断が早くなる。五軒目に立った若い者も、必要以上に肩に力が入っていない。

背後には古参がいる。困れば声をかければええ、という安心がある。

それは既存の四軒も同じやった。

五軒目ができたからといって、一軒目、二軒目の動きが鈍ることはない。

むしろ逆や。「今、ここで気を抜いたらあかん」

そんな無言の意識が、皆の中にある。

理由は単純や。九軒の構想が、もう誰の耳にも入っている。

今は五軒目。せやけど、その先があると、皆が分かっとる。

古参は、これからも増える。店が増えれば、席はまた生まれる。

「今、積んどいたら先がある」その空気が、現場を支えていた。

反物屋でのことも、効いていた。

皆がそれぞれに見繕った着物。

派手ではないが、安っぽくもない。

割引で揃えたとはいえ、「ええもんを着とる」という実感が、

自然と背筋を伸ばす。給仕は、客の前に立つときの所作が変わった。

料理場でも、袖を気にして動きが丁寧になる。

「うちの店のもんや」

そう思われる格好をしている、という意識や。

博之は、それを狙ったわけではない。

せやけど結果として、現場の質は確実に上がった。

味も、同じや。納得できる味で現場を回す。

それができれば、他所より高い給金が出る。

それは皆、もう知っている。

「ごまかしても、結局戻ってくる」

「ちゃんとやった方が、楽や」

そんな声が、自然に交わされるようになった。

活気は、騒がしさとは違う。

声が揃い、動きが噛み合い、

無駄な言葉が減っていく。

五軒目の鍋から立つ湯気を見ながら、博之は思う。

——これなら、増やせる。

今すぐ九軒ではない。

せやけど、その道筋は、もう見えている。

古参が立ち、現場が自走し始めた。

給金の高さも、着物の質も、全部が一つの答えになっている。

「ええ流れやな」博之はそう呟き、鍋の蓋を静かに閉めた。

店は、勢いだけで走っているわけやない。

積み上げたものが、ちゃんと返ってきている。

五軒目は、その証やった。

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