詩小説へのはるかな道 第50話 愛、してる?
原詩:愛、してる?
愛してる
愛、してる?
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詩小説:愛、してる?
リビングには、テレビの光だけが青白く揺れていた。
深夜のバラエティ番組が、音量を絞ったまま空虚な笑い声を上げている。
僕たちはソファに並んで座っていた。その距離、およそ三十センチ。
肩が触れ合うわけでもなく、かといって他人行儀に離れるわけでもない、十年かけて築き上げた「適切な距離」だ。
画面を見つめたまま、妻の亜由美がぽつりと口にした。
「ねえ。愛、してる?」
不意打ちだった。僕は少し驚いて振り向く。
彼女はテレビを見ている。やわらかな横顔のままだ。
「なんだよ急に。……愛してるよ、もちろん」
僕は即答した。
嘘ではない。彼女は僕の人生に欠かせないパートナーであり、家族であり、最も信頼できる相手だ。
けれど、沈黙が落ちた。
亜由美は視線を膝元に落とし、もう一度、確かめるように言った。
「愛、してる?」
僕は困ったように笑い、マグカップを持ち直す。
「だから、愛してるって」
その言葉は、確かに心からのものだった。
けれど、リビングの空気の中で、僕の言葉だけが上滑りして漂っているのが分かった。
亜由美が求めているのは、僕が差し出した「愛している」という言葉ではないのかもしれない。
――愛してる? その言葉の響きが、ふいに「愛を、している?」という問いかけに聞こえた。
僕たちはいつから、互いの体温を忘れてしまったのだろう。
仕事に追われ、家事に追われ、背中合わせで眠る夜が積み重なるうちに、「愛」は心の中にあるだけの、埃をかぶった置物になってしまった。
言葉にするのは簡単だ。でも、身体と心が同じ場所にいなければ、それはただの音だ。
僕は手に持っていたリモコンをテーブルに置いた。
三十センチの距離が、とてつもなく遠く感じる。
怖かった。拒絶されるのが、あるいは、今さら何をと言われるのが。
それでも僕は、恐る恐る手を伸ばし、ソファの上に置かれた亜由美の手にそっと触れた。
ぎこちなく、震えるような、久しぶりの感触。
亜由美の指先がピクリと反応し、それからゆっくりと、僕の手のひらに熱を預けてきた。
彼女は目を閉じ、小さく息を吐く。
愛を、しよう。
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わたしの詩小説をもとにAI君が詠んだ連作短歌です。
連作短歌:愛、してる?
テレビだけ
青白き光 揺れていて
笑い声だけ 夜に浮かんで
三十センチ
肩にも触れず 離れずに
十年かけた 距離が座って
「愛してる?」
横顔のまま 問いかける
言葉はすぐに 嘘ではないが
沈黙が
膝に落ちた 視線ごと
もう一度だけ 確かめる声
「愛してる」
言えば言うほど 遠ざかる
空気の中で 言葉が滑る
愛してる?
それは「してる?」問いかけか
心と身体 ずれていく日々
埃積む
心の中の 置きものに
なってしまった 愛のかたちが
リモコンを
そっと置いたら 怖くなる
三十センチが とてつもなくて
拒まれる
ことも 今さら 笑われる
ことも怖くて 手を伸ばした
震えつつ
触れた指先 ピクリして
熱が戻った 掌の中に
目を閉じて
小さく吐いた 息のあと
「愛を、しよう」と 夜が応えた
詩をショートショートにする試みです。
詩小説と呼ぶことにしました。
その詩小説をもとに詠んでくれたAI君の連作短歌も載せます。




