99話「焼き鳥弁当」
私が春の学園の芝生の上でぼっち飯を決め込んでいたのに……あ、ぼっち飯というのはお父様のタブレットで読んだ漫画から学んだ言葉です。
一人きりで食事をする事。
そう、そのぼっち飯最中、お弁当箱の蓋を開けたら、なんと焼き鳥の(皮が)串に刺さったまま入っておりました。
令嬢は通常、串焼きのたぐいにかぶりつくことはないのです。
でも、焼き鳥はお父様の好物ですし、よく食べている姿も見ましたし、私も食べさせて貰っている、とても美味しい料理です!
「……料理人がせっかくわざわざ串に刺したのだろうし、外すのもマナー違反かもしれません」
私はきっと誰も見ないだろうと、串を手にして焼き鳥にかぶりつきました。
味はしっかり甘辛いタレが絡んで美味しいです!
いつも通りにほんとに美味しい!!
……が、なんと間の悪いことに裏庭に通りかかった第一王子様に焼き鳥にかぶりつく姿を見られてしまいました!!
「!?」
驚愕に見開かれる第一王子様の目……!!
せっかく大人しく上品な令嬢を目指そうとしていたのに、焼き鳥にかぶりつく姿を見られてしまいました!!
……下品な女の子だと思われたかもしれない。
でも、お父様は王子様達に好かれないようにしろとおっしゃっていましたし、逆に下品な女だと嫌われた方がいいのかもしれません。
ならば好感度をあえて下げる方に舵をきる!!
私は殿下に気がつかないふりをして、食事を続けます。あえて堂々と焼き鳥を串からいく!!
「珍しいものを食べているね、それに香ばしい香りが……」
見て見ぬふりでスルーしてくだされば良かったのに! 声をかけられてしまいました!
「お、お弁当です、実家からの」
流石に声をかけられたらこちらは無視をするわけにはいきません。
「へぇ~〜」
などといいつつ、第一王子はどんどん近寄ってきます! 止めて! 距離を詰めないで!
「あの、殿下はお昼に行かれないんですか?」
学園の食堂には王族用のVIP席があるはずです。
「食堂に食べたいものが無くってさ」
「王城からのお弁当は……?」
「大抵毒見が終わった冷めた料理で美味しくはないんだ」
「転移魔法を使えば……温かいままを」
「転移魔法を使っても毒見係が食べて冷めた後に来るんだよ」
「それは……大変ですね」
と、私が言った側からぐぅ〜〜〜〜と第一王子のお腹が鳴ってしまった!
「あっ、ごめん、お腹が鳴ってしまった! あははっ」
照れて謝りつつも何故か私の隣に座る第一王子!
これは私のお弁当をよこせというアピールなんですか?
仕方なく、私はまだ手も口もつけてない、新しい串付きの焼き鳥を第一王子殿下に差し出します。
食べたいものがなくとも、お腹の虫が鳴くなら空腹ではあるんでしょうし……。
「あ、ありがとう、催促したみたいでごめんね」
わざわざ私の隣に座るからいたしかたなく!
「いいえ……」
私の焼き鳥弁当の貴重な焼き鳥が一本減りました。
今頃お父様は焼き鳥を焼きながらお酒なども昼から楽しんでいるのでしょうか?
「これ! すっごく美味しいね!」
「それはもちろん、温かい料理なので……」
温かい我が公爵家の料理は大抵美味しいものです。
「味も美味しいよ、このソース、初めての味だ」
「そうですか」
多分砂糖と醤油の絡んだ味が初体験なのでしょう。そして次はつくねの串も凝視されています。
もしかしてこちらも食べたいのかしら?
「この丸いの何?」
「つくねです、多分鶏肉を細かくして、ぎゅっとして丸くしてあります……」
仕方なく雑に説明して、私はまた一本つくねを王子様に差し出しました。
「ありがとう!!」
そしてやはり遠慮なく私からつくねを受け取って食べて行く王子様……。
「あっ、今は毒見係もいないのに食べさせてしまいました……」
そもそも学園内とはいえ、何故共もつけずに歩いているのかしら、この王位継承者は。
「君が食べてるから、安全ってことだろ?」
「それはそうですが……」
「うん、やはりこちらもとても美味い!! ホクホクして味わい深い!!」
「温かいうちに食べたら大抵美味しいものですよ」
「そう言えばエルシード家は僕の誕生日に銀の器をくれたよね」
「銀は毒に反応しますし、王子様は国にとって大切な方ですし……」
「気を使ってくれてありがとう……」
「私ではなく、父が選んだと聞いております」
「父君に僕がお礼を言っていたと伝えてくれ」
「はい……」
なるべく目を合わせず、好感度を稼がないように私は気を使いました。