96話「ミルシェラ十歳」
新年の宴は盛況にておわった。
そして新年が来たってことは……姫始めってのもある訳で……。
夜も妻と励みました。
そして2年後、公爵家に男子が誕生して公爵家も喜びに包まれた。
待望の男子が産めて、アレンシアもほっとしたことだろう。
そして、本来なら存在しなかったはずの公爵家の男子誕生が、未来にどう変化をもたらすのかは、不明である。
◆◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆ ◆
──そしてまた時は流れた。
ミルシェラが10歳になった春、アカデミーに入ることになった。
いよいよ原作では悪役令嬢だったミルシェラが学園に入学することになるが、ただ今ミルシェラに悪役のオーラはない。
普通に美しく愛らしく優しい公爵令嬢だ。
俺が愛情をかけて大事に育ててきたからだ。
ただ、これから恋をすると、どう転ぶかは分からない。
それだけ恋愛というものは人を狂わせるから、それが怖い。
「あなた、ミルシェラ相手にこんなに求婚の……婚約者にして欲しいという家門からの申し出がありましてよ、そろそろ婚約者をお決めになったら?」
執務室で書類とにらめっこしてる俺の所にやって来たアレンシアが求婚状の束を目の前に積んで迫る。
「まだこれからアカデミーで運命の人と出会う可能性あるだろ」
「王子殿下の相手にという王家からの申し出もあります」
「それだけは絶対に回避せねばならない、命が危うい。王権争いになんぞ巻き込まれてたまるか」
「王族相手にどうやって断るつもりですか?」
「よ……」
「よ……?」
「予言だ、我が国の王族とうちの子どもが結婚すると、国に災いが起こるという……それは神に選ばれた組み合わせではないから……」
「それ、あなたがつくったでたらめの予言ですよね?」
本当に第一王子が毒殺されたら、国にとって災厄だから嘘ではない!
「いいや、実は嘘ではない」
「あなた、予言者になったとでも?」
「この件に関してだけは……」
「全く……うちの子の婚姻がどうして国に災いをもたらすなんて言うのです!?……そんな理由で拒んだら、噂が広まって、何処の家門からの求婚も無くなるかもしれませんよ!?」
「組み合わせが悪いだけだ! ミルシェラが必ず男に災いをもたらすわけではない。騎士とかならいいんだよ! なんなら他国の公爵令息とかでもいいぞ!?」
「他国!? そんな遠くに嫁がせては、さすがにミルシェラがかわいそうではないですか!? そもそも貴方はさみしくならないのですか!?」
さみしくとも……!
第二王子に……男に騙されて罪を犯して死罪になるよりはマシだ!!
「一家没落を回避するには、絶対に我が国の王族と娘を婚約させる訳にはいかんのだ」
「せっかく第一王子と第二王子からも求婚状が届いてますのに」
「えっ!? 第一王子まで!?」
「そうですわ」
おかしいな、原作では第一王子の相手は違う令嬢と……。
でも、やはり第二王子が王位を虎視眈々と狙ってるなら、違う女を誑かして第一王子の暗殺を試みるなら、その第一王子婚約者になったミルシェラも巻き込まれて始末されかねないのでは?
どのみち危険だ。
他国に婚約者を作って逃がしてる方がまだしもでは!?
「ともかく、我が国の王子はだめだ、危険なので、私が断りの手紙をだす」
「あなた、本気で予言だなんて書くおつもりでは無いでしょうね?」
「それがそんなにだめなら病弱設定にして、出産に耐えられない体ってことにする」
「病弱設定って……他の縁談にも差し支えるでしょうに」
「あんなに可愛らしいのだから、病弱で子が産めない設定でもどこぞの騎士とか次男三男あたりからなら求婚されるはずだ」
そして……俺は学園に行く前のミルシェラを春の庭のガゼボに呼び出した。
「いいか、ミルシェラ、これはお前の命を守る為に必要なことなんだ。学園では大人しくして、体が弱いふりをして、我が国の王子達から求婚されないようにしなさい」
「私が王子様に求婚されたら、死ぬのですか?」
愛らしい娘はキョトンとした顔で首を傾げる。
「そうだ、それは大切な予言だから、覚えておいで。体が弱いふりをして、あまり人前で活溌には動かず、大人しくして、子供が産めないフリをしなさい。でも我が国の王子二人が他の令嬢と結婚したら、その後なら愛の奇跡で子供が産めたーみたいなことにしてもいい」
「他の人となら結婚してもいいのですか?」
「ああ、そうだ、どんな時でもお前を守ると固く誓いを立ててくれる男らしい誠実な騎士とかなら結婚してもいいから」
「はい、分かりました!」
と、いった感じで、説得には成功した。多分。