95話「新年ガチャ」
床に敷かれた赤い絨毯の上を妻の手をとって宴の席までエスコートする。
一方、ミルシェラの方は騎士がお姫様抱っこで席まで運んでる。
俺達はお誕生日席みたいな場所に座る。
長くてデカいテーブル席だ。
しかしテーブルのでかさにも限界はあるので、デカいテーブルを四つくらいくっつけてテーブルクロスで覆ってある。
そんなテーブル席が五個あり、中央に我々公爵家のメンツが座ってる。そして……
「魚卵……」
華やかなる新年の宴の席に出てきたイクラの醤油漬けを見てから、そうボソリと呟く妻。
「イクラの醤油漬けだよ、美味しいんだ、これ」
「貴方の仕業ですか?」
まだ子宝祈願のあからさまな縁起物料理で恥ずかしくなるのだろうか? ジロリと睨まれた。
「いや、ほんとに味が美味しいし、こっちも食べてごらん」
次にカズノコの松前漬けを勧めてみた。
「なんです? この黄色いものは?」
「カズノコの松前漬けだ、コリコリして美味しい」
「本当にコリコリしてます……」
「なかなか美味いだろ?」
「変わった食感ですね、味も悪くはありません」
それ、結構いいお値段なんだぜ。……
って、なんだかんだ松前漬けもしっかり完食しているアレンシア。
……美味かったんだろ?
お酒と美味しい料理がテーブルに沢山並んで皆、楽しく談笑したり飲み食いしてる。
「そろそろ新年の運試しをするか」
俺はそう言って己の上着の懐から魔法陣の描かれた布を取りだし、これまた布の中からガチャマシーンを出した。
「ここのつかみを回して中に入ってるカプセルを出したら、一回銀貨一枚でガチャくじに参加できるが、参加希望者はいるか? 妻や恋人や娘にも贈れる美味しいチョコレートやちよっとしたいいものが当たるぞ」
騎士達がざわめいた。
今回は腕相撲勝負ではなく、純粋に運で勝負できる。
「貴方、自分のところの騎士からお金取るんですか?」
一応お金が発生するのでアレンシアが呆れてる。
「これはガチャなのでほんの少しだけな、商品の数に限りがあるから一人一回しか出来ないが、ほんの銀貨一枚で夢が買えるんだぞ、なんなら銀貨が金貨に化けることもあるから」
「それ……ミルもやっていいですか?」
ミルシェラも本の付録で作ったガチャマシーンに興味津々だ。
カプセルは5個ずつしか入らないから、都度入れ替えがやや面倒ではあるが、それはメイドがやってくれる。
「もちろんいいよ、ミルシェラにもお年玉をあげるからな」
俺はミルシェラに銀貨と金貨のジャラジャラ入った袋をあげた。
ミルシェラはその中から銀貨一枚を取り出した。
「これでいいんですか?」
「そうだ、じゃあこのつまみをつかんで右に回してごらん?」
「はい!」
ここでお金を払うという行為を覚えさせるのも悪くはない。
どこぞの王族がお忍びで市場に行った時にお金を払うという行為をしたことが無くて無断でリンゴを持っていこうとして騒ぎになった。
なんて物語を昔見たことがあるし。
ミルシェラがつまみを回すと黄色いカプセルが出てきて、中に入ってる紙を取り出し商品名を読み上げる。
「ブラインドドール?」
「ああ、肘や足の関節が動くお人形だよ、いいものがでたね」
これは間接が動くわりに比較的安価、五千円ちょいくらいで買える外国産のドールで、日本に帰った時に置き配で通販しといたやつだ。
そして見た目がとてもかわいい。
髪の毛はカチカチした硬質なものだから、子供が遊んでもボサボサになることはない。
俺は魔法陣の書かれた布から箱を取り出し、金髪でふしぎの国のアリスみたいな見た目のかわいいドールをミルシェラに手渡した。
「すごくかわいい!!」
「着せ替えもできるぞ、今度着せ替え用のお洋服も買って来てやるからな」
「わあー、すごい!」
もっと高価で追視もついた眼の、リアル寄りの関節球体のドールもあるが、それが買えるとしたら……安価なやつでも五万円は超えるから、俺の投稿してる小説が当たったりした場合だな。
まぁ、造形がリアル過ぎると子供には怖い可能性もあるから、アニメキャラっぽい見た目の方から慣らす方がいいだろう。
「あの、私もいいですか?」
アレンシアの護衛に雇った元女冒険者のホリーが声をかけてきた。
「もちろんいいよ」
「じゃあ一回お願いします」
ディエリーの姉のホリーが一回、ガチャを回し、カプセルを開けて紙に書かれたものを読み上げた。
「香水、ミニボトル?」
「あ、それはとてもかわいいやつだ」
俺はミニボトルシリーズのかわいい香水を取り出した。
ガラスのような容器にはいったボトルは淡いピンクで、キャップ部分はダイヤのように輝いている。
「とても綺麗……かわいい! 宝石みたいにキラキラしてます!」
香水のミニボトルはミニサイズでもディテールが凝ってるからとてもかわいいのだ。
「よかったな、女性に女性らしいものが当たって」
「俺もやります!」
「俺もやりたいです!」
騎士達も、売れば高くなりそうな物を目の当たりにして次々に挙手した。
「短剣エスアール?」
短剣SRだ。
「おめでとう、高価なものが当たったな! この短剣は鞘の宝石の装飾が綺麗なので金貨20枚以上分は絶対にする」
「おおおっ!銀貨一枚でこんな豪華な短剣が!」
「まさに一攫千金じゃないか、俺もやらねば!」
豪華な景品に沸き立つ騎士達。
これは公爵家の宝物庫から出すやつなので、装飾の綺麗なやつなのだ。
「子豚1頭分のお肉」
「あははは! 肉だ!」
周りの騎士達が手を叩いてやんややんやと騒ぎたてる。
「俺はチョコレートビスケットが当たった!」
「はい、おめでとう、美味しいぞ」
日本で買ってきた箱入りチョコビスケットをあげる。
「さて俺のは……絹織物だ! 母に贈ろう!」
「親孝行ーー!」
「レースのハンカチ……あ、とても綺麗ですね! レディにプレゼントしよう」
「どこのレディに渡すんだ?」
「いつか出会うレディに」
「あははっ!」
「銀貨三枚」
「あはは! お前銀貨一枚だして増えたぞ! やったなぁ!」
「そうだな! あはははっ!」
お酒も入ってる無礼講の席なので愉快そうに笑う騎士達。
「ワイン樽一つ」
「わはは! お前沢山飲めるな!」
「お裾分けも頼むぞー」
「いいぞ、樽1個分は相当だからな!」
「でたー!金貨一枚! 銀貨が金貨に化けたぞ!」
「この運試し、夢があるなぁ」
このようにして、新年の運試しガチャは大変もりあがった。