94話「年末から新年」
「腰……」
「腰……ここを揉めばいいのか?」
「んん……っ」
ベッドの上でナイトウェアを着て、気怠そうに腰とつぶやく妻の腰をマッサージする二度目の子作りチャレンジの後の俺。
テクニックを駆使しすぎて前回風俗通い疑惑をかけられたから、前よりは手加減したんだけど……な。
「ここ、痛いのか?」
腰のマッサージをしつつ、うかがいを立てては見るが、
「痛くは……ないです」
「じゃあ気持ちいいのか?」
「……答えたくありません……」
「そ、そうか」
気持ちいいというワードを言うのが恥ずかしいのかもしれない……。
まぁ、怠いなら腰でも足でも怠いならどこでも揉むし、さするけどな。
そろそろ年末ってところで結局新年の宴の席ではイクラの醤油漬けを出してもらうことにした。
カズノコは日本のスーパーで一応買って来ている。松前漬けってやつを。
それと子供を沢山産んだ人は歯がボロボロになると言う話も聞くし、念の為、まだ2人目ではあるけどカルシウム入りのウエハースなんかもおやつの時間にでも食べさせておこうかな。
お菓子と言えば新年の運試しに、宴の席で騎士達にくじでも引かせてプレゼントしようかな?
腕相撲のチョコレート争奪戦も盛り上がったし。
今度は腕相撲ではなく純粋に運試し。
お菓子が足りない場合は、銀貨とか、他の商品も付けよう。
ちょっとワクワクしてきた。
新年の宴のことを考えつつ妻の体をマッサージしていたら、微かな寝息が聞こえてきた。
どうやら寝落ちしたらしい。
「おやすみ……」
眠る妻の頬にそっとキスを落とす。
時折煖炉の火を眺めつつ、ベッドサイドに置いていた、ゴブレットについだ蜂蜜酒をあおる。
静かな冬の夜に薪が爆ぜる音も聞き、心地良さを感じつつ、俺も歯を磨いて寝る事にした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
────そして迎えることとなった新年の朝。
公爵家内にあるパーティー会場では楽師による演奏が既にはじまっている。
テーブルには美味しそうな料理も沢山並んでる。
宴の席の妻のドレスは赤で、ミルシェラが白を着ていて、新年から紅白でめでたいな!!
俺の本日の衣装は黒い礼服ではあったが、赤いマントをまとっているのでアレンシアと部分的におそろいだ。
俺はミルシェラを抱き上げ、頬ずりをして、それからほっぺに、ちゅーまでして、
「新年おめでとう、ミルシェラ」
と、言った。
「おめでとうございます、お父さま」
もっと大きくなったら頬ずりなんかできなくなるだろうから、今のうちに愛情表現のスキンシップをしておかなくてはと思ってる。
ミルシェラの柔らかな頬にちゅーした後でそっと床に下ろし、今度は妻の手をとり、手の甲にキスをする。
「新年おめでとう、アレンシア」
「おめでとうございます……」
若干、朝に弱いのかテンションが低いように見える妻。
一旦妻子から離れてくじ引きの準備に執務室に行くと、何故か妻の侍女が静かに俺に近寄って来た。
そして耳元で囁く。
「公爵様……何故お嬢様より先に奥様にキスしないんですか? 拗ねておられたじゃないですか」
「えっ、あれは朝だからテンションが低いんじゃなくて、拗ねたのか?」
「そうですよ!」
「でも娘だぞ? 我が子だぞ? 嫉妬対象になるのか?」
「貴族女性の矜持の高さを舐めてはいけませんよ、新年の祝福のキスを捧げるのならば、妻に最初にしなければ!」
どうやらキスする順番を間違えたらしい俺。
「そんなにかぁ……気をつける、来年からは……」
「本当にお願いしますね」
それから日本で仕入れていた小学生男児の読む雑誌の付録である、紙で作るガチャポンを組み立てたものを魔法陣の描いてある布から取りだした。
そのガチャマシーンの小さめのカプセルに商品の名前を書いて入れ、くじの用意をした。
これで参加したい者たちに何回かガチャを回してもらうことになる。
最後までこんな紙製でもつかな?
万が一、付録のガチャマシーンが壊れたら箱にいれて引いてもらうくじに変更するとしよう。
臨機応変に。