91話「発電機と製本」
夕方頃にスーパーに着いて、俺がタイムセールだとウキウキ買い物をしていたら、いつの間にか夜の七時過ぎになっていた。
欲しい商品をカートにセットしたカゴの中に入れていたら、タブレットにピコンとSNSの通知が入った音がして、チラリとカバンの中を確認すると、どうやら姉からだった。
レジで精算をして、サッカー台で荷物を詰め、タブレットで姉に返信する。
『今どこ?』
『チャリで近所のダイキチスーパーに来てる』
『買い物中ね、じゃあ九時半頃にそっちの家に行く』
『分かった、いつものように肉やチーズや魚も持ってきたから、クーラーボックスを頼むよ』
『分かった、ありがとう! そちらに行く途中で何か買って来て欲しいものある?』
『じゃあドラストでトイレットペーパーとかかさばるやつを』
姉からおにぎりに目や口のついたキャラの絵柄で了解のスタンプが送られてきた。
そして夜9時40分頃には弁当配達用の大き目の車に乗ってきた姉がうちの駐車場に到着し、その車には頼んでいたトイレッペーパーの他に発電機が積んであった。
「近所のおじいさんが亡くなってね、不用品で欲しいのあったらと言われたら発電機があってさ、ケントが欲しいんじゃないかなって貰ってきたよ」
「ラッキー、ありがとう! 発電機は何気に買おうか悩んでた品だ」
俺は発電機を抱え、魔法の布の魔法陣の上に移動させた。
魔法陣に吸い込まれる品の姿を見る度、姉は感心してる。
「ついでにうちの店のお弁当も持ってきたけど食べる?」
「食べる食べる! やったー! これ何弁当?」
「そぼろ弁当と大葉入り白身魚のフライ弁当の二種類」
「どっちも好きなやつだ!」
家の中に入ってコタツで美味しいそぼろ弁当を食いながら近況報告をしあう。
と言っても、姉はもう食べて来たらしく、弁当はいらないらしいので温かい梅昆布茶だけ飲んでる。
相変わらず病院の俺の本体は意識不明で寝たきりで、俺の方は……必要な生活物資の買い出しなどに来たと報告。
実は妻に風俗浮気の疑いをかけられてエロ本も作ってるとは姉に言いにくい。
「そういやコスプレイヤーのミカちゃんが夏にナイトプールに行った時の写真集作って売ってたんだけど、写真いくつかもらったけど見る」
「ナイトプール! すごいパリピ感!」
「ほらこれ」
スマホの方中にある画素を姉が見せてくれた。
幻想的に見えるネオン系ライトアップの中でジュースを持ってたりする姿、そしてヴィーナス誕生みたいなアコヤガイの浮輪に、虹つきの雲のような映える浮輪にスワンの浮輪でプールに浮かぶ姿も。
「これはかなりフォトジェニック!」
「なかなか綺麗よね、紅葉の写真とクリスマスマーケットの写真もあるのよ」
そう言って違う写真も見せてくれた。
「こっちも綺麗でかわいいな、俺ももっと嫁と娘の写真撮ろう、星祭りの時とかもっと撮れば良かった、せっかく綺麗なドレスを着てたのに」
「どんな?」
姉が梅昆布茶を飲みつつワクワクした顔で問うてくる。
「あ、一枚だけなら、タブレットで撮ったやつがある」
俺はフォトのアイコンをタップして、アレンシアの写真を姉に見せた。
「ヒューーッ! さすが公爵夫人美しい! このドレスのキラキラしたの、もしや宝石!?」
「多分その星に見立てたやつはダイヤだと思う」
「金持ちのスケールがすごい」
「それでこっちが娘のミルシェラの写真」
「かわちいーー!」
そして姉が帰る時に車にあるクーラーボックスと後部座席に異世界から仕入れてきた食材を詰込み、俺は例のエロテク本の製本を済ませた。
二つ折りにして、ホッチキスで留め、製本テープでホッチキスの芯を隠しつつ背を包むように貼ると完成した。
両面を印刷して真ん中で中綴じできるホッチキスもあるが、今回は両面印刷が面倒だったので紙を折って作った。
厚みが出て、本っぽい見た目になるから。
中綴じの方はページが開きやすい利点があるが、パンフレットや小冊子のような薄いやつに適している。
日本語で書いてあるからアレンシアには読めないだろうが一応表紙も作り、タイトルも入れた。
『秘儀伝授』というタイトルだ。そのまんまだ。
これでアレンシアが納得してくれたらいいなと思う。




