90話「日本で本を」
ゲストハウスに宿泊した星祭りの客達が化粧品や歯ブラシなどのアメニティに沸いていたのは大変結構なのだが……失策をした。
夜の行為を頑張りすぎて、俺は妻に疑いを持たれていた。
「なんですか、あなた。あの百戦錬磨のような……夜の技は……そうです、あれは夜の営みというより……あれは技では? もしかしてダンジョンに行くと言いつつ娼館にでも行かれてました?」
やりすぎた……。テクニックを駆使しすぎた。
昼過ぎに妻の部屋に呼ばれたと思ったら、こんな事に……。
彼女は食事後にまたベッドに戻ったそうだ。
まだ足腰に力が入らないとかで……。
「違う、娼館通いではない。あれは君との婚姻前……過去の経験と、本等の知識で」
俺は昔、元カノを満足させる為に色々ネットで知識を詰め込んで頑張っていたんだ。
結局はハイスペイケメンに寝取られたけど。
「婚姻前の過去!? ミルシェラを授かる前とちがってましたけど!!」
あああっ。本来のケーネストと違うのはあたり前だ! 俺は中身が違うのだから。
「男の子が必要らしいから……だいぶ昔の記憶を掘り起こしたんだ……あ、男子誕生祈願は庭に牡丹の花を植えるといいとかも、本で昔読んだぞ」
適当にいい訳を言い連ねてみたが……
「男子が必要なことくらい最初から分かっていたはずでは!? 大事な後継者ですよ」
「子供は天からの授かりものと言うじゃないか。男児だろうが女児だろうか、うちに産まれて来てくれるなら、どちらも等しく愛情を注ぐべきだ」
「……もっともらしい事を言ってごまかしておられませんか? 本と言うならそれを見せてください」
……やれやれ、疑い深いな。
「本はダンジョン産で君には読めない文字で書かれているぞ」
「では何故あなたには読めるのです?」
うっ!!
「それは……私にもよく分からないが、壁を通り抜けられる資質と関係があるのかもしれない」
「……いいから、そんな本が本当にあるなら見せてください」
やはりアレンシアは実物を見るまで諦めないつもりか……。
「あちらにあるのをその場で読んできただけなので、取りに行く必要がある」
「では取って来てくださいませ」
そこまで言うなら、エロい知識を詰め込んだやつを集めてプリントアウトして本の形にして持って来るか……。
ホッチキスで止めて製本テープで仕上げたら、一応本には見えるだろ。
「じゃあ、あちらに行ってくる」
「はい」
どのみち冬は後一回は、あちらに戻る予定だった。
春のパーティーの招待状も印刷するつもりだったし……そんな訳で、俺は姉に渡す為のこちらの食材をまたかき集めてから、時短をする為に護衛騎士を数人連れてスクロールで洞窟まで飛び、また日本に戻った。
俺はエアコンのスイッチを入れ、異世界の公爵の服からセーターとジーンズに着替え、パソコンの前に座り、文章に絵付きで本の形態になるように編集し、プリントアウトをはじめた。
姉にまた一時的に日本に帰ったとメールで知らせ、ついでに妻の招待状のプリントアウトも忘れずにやる。
その間に予約投稿しておいた小説のランキングをチェックした。
すると、なんと俺の学生時代の作品が異世界ファンタジー部門のランキング10位内にいるではないか!
どうやらランキング上位を長く独占していた人気作家の連載が終わってしばらく経った後だったので、丁度隙間に入り込めたらしい。
運がいい……。
感想もそこそこ貰っていたので、返信しておこう。
ひとまず感想返しを行い、プリンターが仕事をしてる間に、俺はタブレットで銀行にある預金残高を確認した。
──お、異世界の肉などの食材をたっぷり渡している姉から振り込みがあった。助かる。
「予算もそこそこあるし、本の形態にするためにはホッチキスと製本テープがいるな……百円均一に行くか」
俺は買い物に出かけることにし、玄関の引き戸をガラリと開けた。
「寒っ」
クリスマスを終えたところで、世間はもう年末の雰囲気だ。
おせちのカタログも郵便受けに入っていた。
カタログを取って玄関内に放り込み、鍵を閉めてチャリに乗る。
ダンジョンに行く為に転移スクロールを使い、まだ夕方の4時頃で店が閉まる前なので助かった。
百円均一の店で便利グッズを買い、生産後の商品をトイレ内で魔法の布に収納して、身軽になったところでまたスーパーにも寄ると、夕方のタイムセールがちょうどやっていた。




