87話「エルシードの星祭り」
「アレンシア、星祭りの日の夜に、君の部屋に行くからな」
「えっ、あっ、はい……」
俺は意を決して、星祭りの日に寝所に行くぞ宣言をした。
アレンシアは当然の俺の宣言に、珍しくあからさまに動揺し、面食らっていた。
顔は赤くなっていたから、意味は通じているはず。
ちゃんと男の子が生まれるかは謎ではあるが、子を増やすことで、アレンシアの立場と命をそれで……守れるなら……俺が将来的に子供と離れ離れになるかもしれないという寂しさなど……置いておかねば。
きっと、父親はどちらかが残ると信じてる。
俺が万が一消えても………本物のケーネストがきっと残る。
俺の死にそうなのにまだ謎に生きている日本で眠り続けている肉体が、そんな風に思わせる。
────そして特別にクリスマスツリー的な物もサロンに星祭りの数日前から用意し、設置した。
「あなた、なんですか? この木は?」
アレンシアが見慣れぬツリーの飾りに怪訝な顔をした。
「星祭りの日の朝、この木の側に私がアレンシアとミルシェラプレゼントを置いておくから受け取ってくれ。アレンシア用の物には金のリボン、ミルシェラ用にはピンクのリボンがついているよ」
「まぁ、そうなんですの、一体どこの国の風習ですか?」
多分キリスト教圏の……。
「遥か遠く……ダンジョンの向こう側……かな」
「まぁ、それはまた、本当に遠そうな……」
◆ ◆ ◆
そして……ついに星祭りの前夜になった。
俺は暖炉の炎をしばし眺めながら、ロッキングチェアに揺られつつ、深夜0時になるのを待った。
ふくろうの鳴き声のアラームの音がその時を知らせてくれた。
俺は魔法の布から妻子のプレゼントを取り出し、ツリーの側に置いた。
記念写真もついでに撮った。
暖炉が側にあるし、とても絵になる。
二人には朝に目覚めたら、この部屋に来るように言っておいたから、どんな顔をしてプレゼントを手にするだろうかと、今から想像していたら胸に温かいものが広がる。
◆ ◆ ◆
異世界のお祭りである冬の星祭り当日の朝を迎えた。今は10時半くらいで、軽食を部屋で済ませた。
今日は特別にオシャレする日なので、使用人が着替えを手伝ってくれている。
俺は新しい礼服を着せられている間に執事の報告を聞いた。
アレンシアとミルシェラは、朝からサロンのツリー側のプレゼントを手にして、とても嬉しそうだったとのこと。
「そうか、良かった」
「何故直接お渡しにならないのですか?」
手渡しの方が確かにその瞬間の顔が見れる。
が、しかし……
「そういう様式美なんだ……その瞬間を想像するのも悪くないものだ」
「さようでございますか……」
着替えが終わったので、これから俺はゲートのある神殿へ向かう。
本日は夜に妻子のドレスアップ姿を見たくて、あえてまだ顔をあわせていない。自分で焦らしプレイをしているのだ。
「では、神殿のゲートまで他の貴族の迎えに行ってくる」
「はい」
◆ ◆ ◆
夜を迎えた。
俺とアレンシアは別の場所で朝と昼は挨拶に来た貴族達の対応で忙しくしていた。
アレンシアは地元の貴族と屋敷で挨拶、俺は遠方からの客を神殿で出迎え、そこでも聖歌などを聞きつつ貴族達と賑やかにしていた。
そして夕刻、馬車で数が揃った招待客と屋敷に向かう。
西洋風の街並みでありつつも、エルシードの邸宅の庭にて魔法の灯り以外にも竹灯籠が灯され、幻想的な光が道を作り、照らしていた。
着飾った招待客も珍しい竹灯籠の飾りに驚いていたようだった。
そして、本日ようやく妻子と対面だ。
アレンシアとミルシェラのドレスは、まるで星空のように、グラデーションの効いた群青のドレスにダイヤが散りばめられて星のように輝いていて、その上から雪のように真白いふわふわの毛皮のコートを羽織ってる。
流石……公爵家のお祭り用ドレスはガチだな。
感動した。
「とても綺麗だな、二人とも」
「ありがとうございます、貴方も素敵ですよ。プレゼントもありがとうございます」
「ああ」
本日の俺の群青の礼装も、飾り紐を留める装飾部分がダイヤだったり、豪華で華麗だ。
「お父さま、今夜もひときわ素敵ですー! 木の側の素敵なプレゼントも沢山ありがとうございました!」
「二人とも、喜んでくれてよかったよ」
ミルシェラもドレスの上に真白いふわふわのコートを羽織っていて気持ちよさげだ。両手で俺が抱き上げたらやはりコートがふわふわしてて気持ちいい。
するとミルシェラが俺の頬にキスをしてくれて、その後は頬ずりのサービスまでついていた。
うちの娘、ガチで可愛すぎる。
平民の星祭りの会場は外の公園にあるが、貴族は寒いのが嫌なので、こちらの招待客のパーティーは公爵家の庭園の魔法結界内で行なわれる。
基本的に寒い冬は社交の集まりもしないのだが、大貴族のみ、防寒魔法等で金をかけられるから、星祭りだけはこのように集まる事がある。
そして祭りなので七面鳥の料理やケーキ、俺提案のチーズやチョコレートフォンデュ等、美味しいご馳走が沢山だ。
「エルシード公爵家のお料理は特別美味しいですねぇ、どれもコレも」
「ええ、当家と何が違うのかしら?」
「やはり調味料では?」
などというセリフも聞こえてくるし、盛況だ。
「エルシード公爵様、この料理はなんですか?」
「チョコレートフォンデュです、その串に刺した苺などにチョコをまぶして食べてみて下さい、ドレスを汚さないようにお気をつけて……」
「はい……こうかしら? んまぁ! なんて美味しいこと!」
「どれどれ、私も……これは甘くて美味しい!」
「こちらはチーズフォンデュです、こちらも美味しいですよ」
「公爵家は美味しくて珍しい料理が多いですわね」
夜空の星を眺めつつ、祭は大いに盛りあがり、魔法使いの花火も夜空に咲いた。




