86話「秘密の話」
なんとなく食べたくなったハッシュドブラウンを俺は少し遅い朝食に出してもらった。
ホクホクでと表面はカリッとしてて美味しいので満足。
ちなみにハッシュドブラウンとハッシュドポテトは呼び方が違うだけの同じものであり、細かく切った、あるいはみじん切りにしたじゃがいもを固めて焼いたり揚げたりする料理だ。
ハッシュには細かくする、寄せ集めるといった意味がある。
他のメニューはベーコンとバゲットとコーンスープでまるでアメリカ人のような朝食。
これで珈琲がついてたらもっとそれっぽいか?
そしてバゲットには、熱で溶かしたチーズを垂らして食べる。まるでスイスの山小屋気分でこちらも美味しい。
ミルシェラの朝食には最近お気に入りのワッフルにメープルシロップをかけたものでかわいい。
ドライフルーツとコーンスープもついている。
これもかなりアメリカ感がある。動画で見た限り、あちらの子供や女性は朝食にワッフルかパンケーキかフルーツグラノーラ系を食べていた気がする。
アレンシアは日によって俺と一緒のものを食べたり、ミルシェラと同じ物を食べたりしてるが、今日は俺と同じメニューのようだ。
朝食の場で何かあたり触りのない話題はないか探し……そして思いついた。
早速妻に聞いてみよう。
「え? 私の書いたお茶会やパーティーの招待状の見本が……欲しいのですか?」
「ああ、同じ文面の所なら見本通りに印刷して楽してもいいのではないかなと。宛名のところだけ手書きにすれば手間と時間が節約できる。何気に招待客が多いと書くのも大変だろう? 冬の間にあと一回だけダンジョンに向かうから、そちらで印刷してくるよ。社交シーズンは春からなので、それでささっと間に合わせる」
アレンシアのパーティーやお茶会の招待状の書き方見本をもらえたら、宛名以外は日本でカードや紙に家のプリンターで印刷してくる。
「印刷……ダンジョン先には代わったものが多いのですね。まぁ、確かに……量が多いと手が痛くなりますし……分かりましたわ、後で見本をメイドに届けさせます」
「ああ、よろしく」
「ところでパーティーで思い出しましたが、星祭りの衣装はどうなさいます? 私とミルシェラのドレスはもう注文していますし、決まっていますけれど」
「星祭りだろ? 男なんか群青や黒系を着てればいいと思うが」
「やはり……そう言われると思っていましたから、群青でオーダーしておきました」
「流石だ」
衣装系は妻に任せておけば大丈夫だな。
◆ ◆ ◆
そして食事の後に執務室で仕事をしていたら、アレンシア直筆の招待状の見本がメイドによって届けられた。
これを日本の自宅のスキャナーで取り込んでプリンターで印刷すれば楽ができる。
仕事の後には日本で仕入れたトイレットペーパー等の補充の為にもトイレに行った帰り、廊下で妻の侍女の一人であるミランダ・レ・カレノンに声をかけられた。
そして何やら内密の話があるらしいので人のいない空部屋に二人で入った。
なんだなんだ? 穏やかじゃないな。
「旦那様、これをご覧下さい」
彼女の手にあった袋の中から取り出されたのは、透け感のあるセクシー系ナイトウェアのようだった。
「こ、これは? 寝室で着るやつだよな?」
「そうです! 旦那様がすぐにダンジョンへ向かってしまわれるので奥様がお怒りになってゴミ箱に投げ捨ててしまったものです」
!!
ああっ! アレンシアはそれを着て夜に誘ってくれる予定があったのか!!
「ご、ゴミ箱から救出したのか……」
「だって綺麗なのに一度も袖を通さず捨てられるのは可哀想ではありませんか! これを大事に縫っていた人間がいるんですよ! そしてなにより、後継ぎの男子が必要なのですよ! 奥様には」
侍女はちょっと興奮して声を上げたので、俺は思わず侍女の口を掌で塞いだ。
「こ、声が大きい、分かった、私が悪かったから」
しかし、唇の柔らかい感触が手の平に伝わり、俺は慌てて手を離した。
「まったく、よろしくお願いしますよ公爵様」
「わ、分かってる、善処する」
「もう、本当にお願い致しますね」
「ところで……その救出した服はどうするんだ? 洗ってしれっとまた出すのか、君が着るのか?」
ちょっと興味があって聞いてみた。
「奥様自ら捨てた物を洗ったとて奥様に出せませんし……どうしましょうね? 私の妹にあげてしまっても?」
「ああ、君が着てもいいし、知り合いにあげてもいいと思うよ」
「わかりました、ありがとうございます」
侍女は俺に頭を下げて部屋から出て行った。
仕立てのいいものだし、ゴミにするよりはいいよな。




